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[S08-26] Estimating fault mechanical parameters by strategic incorporation of tsunami, geodetic and teleseismic data: the 2011 Tohoku earthquake
地震の応力降下 (Stress drop) や放射エネルギー (Radiated energy),地震放射効率 (Radiation efficiency) といった地震の断層破壊を特徴づける力学パラメタは,地震におけるエネルギー収支を理解する上で重要なものであり(e.g. Kanamori & Rivera 2006 AGU Geophysical Monograph),しばしば遠地実体波記録を使用したインバージョン解析で得られた震源断層モデルから見積もられる (e.g. Ye et al. 2016 JGR).しかし,遠地実体波インバージョンでは,解析上で仮定する破壊フロントの進展速度と,最終的なすべり分布およびそこから見積もられる応力降下の間にはトレードオフの関係があり,その見積もりに不確実性があることが指摘されている (Ye et al. 2016).そのため,上記の力学的パラメタを遠地実体波インバージョンのみから高い信頼度で推定することは,しばしば容易ではない.他方,津波データは時間解像度が低いという欠点があるものの,その非常に遅い伝播速度 (~10-1 km/s) から断層面上の破壊伝播の影響を受けにくく,最終すべりや応力降下の空間分布の推定に高い制約を与えることができる.最近,Kubota et al. (2022 PEPS) は,震源域直上で得られた津波データと海陸の測地データから,2011年東北地震の最終すべりと応力降下の分布を高い信頼度で推定した.本研究では,津波と測地データから推定した最終すべり分布の情報を統合した遠地実体波インバージョンの解析手法を提案し,信頼度のより高い東北地震の力学的パラメタの推定を試みる.本解析では,これまで行われてきた遠地実体波インバージョンと同様に,遠地P波記録を用いて断層すべりの時空間発展を推定する.本手法の特徴的な点は,実際のプレート境界構造に基づいて点震源要素を配置する点,および,最終すべり分布が津波・測地データに基づく解析で推定したもの (Kubota et al. 2022) と同じになるという拘束条件を課す点の2つである.解析で得られた東北地震の震源モデルから地表変位および津波を計算したところ,測地観測点の永久変位のみならず,震源域近傍の津波観測点の初動やピークの振幅と到達タイミングをよく再現した.すべりの時空間発展および震源時間関数は,遠地地震波のみの解析で得られたものとおおむね調和的あったが,最終すべり・最終応力降下分布には異なる部分が見られた.本解析からは,海溝近傍に~50 mの最大すべり,および,震源周辺に~5 MPaの主な応力降下領域が推定された.一方で,Ye et al. (2016) が遠地実体波のみから推定した結果では,海溝近傍に最大すべりが推定された点は類似していたものの,そのすべり量は~90 mと非常に大きく,かつ海溝付近に~70 MPaと極めて大きな応力降下が推定された.本解析で得られた震源モデルに基づいて,断層の力学的パラメタを計算すると,以下の通りとなった:Radiated energy ER = 5.4×1017 J,モーメント規格化エネルギー Moment-scaled energy ER/Mo = 1.2 × 10-5,見かけ応力 Apparent stress σa = 0.49 MPa.これらの値は,Ye et al. (2016) が遠地実体波のみの解析から推定した値と同様であった.なお,これらの値は過去に発生した津波地震 (Kanamori 1972 PEPI) における値ほどは小さくない.また,本モデルを用いてEnergy-based stress drop (エネルギー収支の観点から定義される実効的な平均応力降下,Noda et al. 2013 GJI) を計算すると,ΔσE = 3.2 MPaとなった.この値はYe et al. (2016) の推定値 (12.5 MPa) よりも小さい.また,この応力降下の推定値の違いに起因して,放射効率 Radiation efficiency ηR = ER/ΔW0 = 2μΕR/(ΔσEMo) は,本モデルのほうが約4倍大きい値となった.これらの値に違いが出た理由は,両者のモデルにおいて,海溝付近での最大すべり量,および,主な応力降下域の位置に違いがあったことにあると解釈される.しかし,Ye et al. (2016) モデルにもとづいて震源域近傍で得られた津波波形を計算すると観測よりも過大となったことから,Ye et al. (2016) の最大すべり量は過大推定であったこと,さらにはEnergy-based stress dropが過大推定であったことが示唆される.この結果は,津波・測地データに基づいて得られた信頼度の高い最終すべり分布を遠地実体波インバージョンに組み込むことが,地震の断層の力学パラメタをより高い信頼度で推定するために効果的であることを示している.