[S08P-01] Diverse preseismic creep behavior of an RSF fault realized by choice of an evolution law: Insight from dynamic earthquake cycle simulation
大地震前の断層クリープ挙動を理解することは重要である。いくつかの既往研究では、速度状態依存摩擦に支配される断層の準静的もしくは準動的なモデル計算を行い、採用する状態発展則の違いによって多様な地震前クリープ挙動が実現されることが報告されている。しかし、モデル計算の結果は当然初期条件に依存する。動的地震サイクルシミュレーション(ECS)では初期条件が過去の履歴に整合した形で与えられるため、より現実的といえる。動的ECSにおける地震前のクリープ挙動は、準静的および準動的な場合とは異なることが知られている。これまでの動的ECSによる地震前クリープの研究は、我々の知る限り、状態発展則としてaging law(AG)を採用した場合に限られる。そこで本研究では、AG、Nagata law(NGT)、slip law(SL)の三つの異なる発展則について、スペクトル境界積分方程式法による動的ECSを実施し、2次元問題における直線断層の地震前クリープ挙動を調べた。なおSLについては、破壊先端のプロセスゾーンが非常に小さい事による数値計算的困難を、off-fault plasticityを考慮して破壊エネルギーを増加させる工夫を用いて解消した(modified slip law, MSL)。AGおよびNGTを採用した場合、地震前モーメントレートdM/dtはtime-to-failure tfの-1乗に比例して加速したのに対し、MSLではtfの-0.9乗の加速を示した。大地震直前のdM/dtはAGで最大かつMSLで最小であったため、地震前クリープの検出難度はAGで最も低くMSLで最も高いことがわかった。クリープ域における高滑り速度域の大きさは、tfが減少するにともなって、AGでは顕著に変化せず、NGTで減少したのちにほぼ一定となり、MSLで常に減少することがわかった。ある大きさの震源核を生み出すのに必要なクリープ域の大きさはMSLで最大であったため、核サイズから推定される地震の最小規模はMSLで最も大きくAGで最も小さいことが示唆される。どの発展則においても、tfが減少するにしたがって、モーメントセントロイドの位置は移動したのちに同じ位置にとどまることがわかった。NGTを採用した場合、核形成の前半でMSL、後半でAGと類似したクリープ挙動を示し、これは先行研究の準静的な計算結果と矛盾する。この違いは、物理的に妥当な初期条件を設定できる動的ECSを実施することの重要性を示唆するものである。三つの発展則のいずれを採用した場合でも、地震前クリープ挙動の加速・局所化・移動の発展は、天然のいくつかの大地震前の前震活動(断層クリープの指標)の時空間的な特徴を、完全ではないものの部分的に説明できることがわかった。