[S09P-10] 日向灘における2023年4月~7月の浅部微動活動
日向灘のプレート境界浅部領域では,浅部スロー地震(浅部微動と超低周波地震)の活動が数年に1度の頻度で活発化することが知られており,南海トラフ沿いではもっとも活動が活発な領域である.2013年に海底地震計を用いた観測で浅部微動の詳細な震央分布が明らかになり,以降,文科省委託研究(南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト,防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト)や災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究において浅部スロー地震活動のモニタリングが行われてきた.この10年の間に最大の活動となったのは,2015年5月~7月にかけての活動で,足摺岬沖まで震源域がmigrationを伴いながら広がった活動であった.この活動は足摺岬沖のトラフ軸付近まで活動が広がっていたものの,2015年の観測ではトラフ軸より海洋プレート側に観測点がなかったため,実際の活動範囲の広がりがトラフ軸にどれだけ近いところまで広がっていたかを把握するのが難しかった.2022年より2015年の活動の再来を見据えて15台の海底地震計を用いた観測網を構築し,待ち受け観測を行っていたところ,2023年4月中旬~7月にかけて観測網直下で浅部微動活動があり,観測に成功した.浅部微動の震源決定は,2015年の解析(Yamashita et al., 2021)と同様に,震源の深さをNakanishi et al. (2018)のプレート境界モデルに固定したエンベロープ相関法(Obara, 2002)によって決定した.震源決定ができたイベントのうち,比較的精度良くも止まっていると考えられる誤差10km未満のイベントは9379個であった.2023年活動の時空間発展を確認したところ,2013年活動に見られた南から北への速いmigrationに始まり,沈み込む九州パラオ海嶺にさしかかったところから西から東へのmigrationに切り替わり,約1ヶ月をかけて足摺岬沖のトラフ軸近傍までmigrationした.その後,断続的に活動が続き,6月~7月の活動は足摺岬沖でほとんどが見られ、7月下旬に活動が終了した.2015年活動の特徴と比較すると,震源分布はほぼ似たような形をしており,2015年活動に見られた東経132.7度~132.9度付近にみられる活動度が低い領域も非常によく似ていることが分かった.宮崎市沖から足摺岬沖までの領域で浅部微動の活動の再現性が確認できたのは初めてで,この領域のプレート境界浅部では浅部微動活動をコントロールする構造的な特徴もしくは摩擦の特性が存在していると考えられる.また,2015年の活動で区別が付かなかったトラフ軸付近の活動については,誤差の範囲内でかなりトラフ軸に近いところまで広がっていることが確かめられた.九州パラオ海嶺の沈み込みより南側ではトラフ軸と浅部微動活動域には若干の空白域が存在するが,足摺岬沖ではトラフ軸のかなり近傍まで浅部微動がmigrationしていることから,背後に存在すると考えられる短期的SSEはトラフ軸近傍まで達している可能性が高い.2023年観測では小型広帯域海底地震計(CBBOBS:Shinohara et al., 2020)を多数設置しており,2015年活動では解析が難しかったVLFEの解析も実現できる見込みである.今後は浅部微動の精密な震源決定やVLFEの解析を行い,両者の位置関係などの議論を目指す.
謝辞:海底地震計の設置・回収航海は,長崎大学水産学部附属練習船「長崎丸」(教育関係共同利用)および海洋エンジニアリング株式会社所属「第三開洋丸」によって実施されました.両船の乗組員の皆さまには,作業実施にあたりご尽力いただきました.東京大学地震研究所の技術職員の皆さまには,海底地震観測の準備にご尽力いただきました.鹿児島大学・九州大学・東京大学・京都大学・東京海洋大学の学生諸氏には関係航海に乗船いただきました.本研究は,文部科学省委託研究「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」および文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測計画(第2次)」によって行われました.記して感謝いたします.
謝辞:海底地震計の設置・回収航海は,長崎大学水産学部附属練習船「長崎丸」(教育関係共同利用)および海洋エンジニアリング株式会社所属「第三開洋丸」によって実施されました.両船の乗組員の皆さまには,作業実施にあたりご尽力いただきました.東京大学地震研究所の技術職員の皆さまには,海底地震観測の準備にご尽力いただきました.鹿児島大学・九州大学・東京大学・京都大学・東京海洋大学の学生諸氏には関係航海に乗船いただきました.本研究は,文部科学省委託研究「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」および文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測計画(第2次)」によって行われました.記して感謝いたします.