日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S12. 岩石実験・岩石力学・地殻応力

[S12P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S12P-05] 室内摩擦実験と数値解析による断層内のboundary shearの発達過程の解明

*久戸瀬 稔1、廣野 哲朗1、畑中 衞2、堤 昭人2、宮本 英2、湯川 諭3 (1. 大阪公立大学、2. 京都大学、3. 大阪大学)

1.研究の背景と目的
地震時の断層すべり挙動の理解は、断層のすべり量の評価および解放されるエネルギーの推定において極めて重要である。地下の岩石がせん断を受けて断層を形成し、変位を増大させる過程において、リーデル面やY面といった特定の方向性をもつ面構造が発達することがあり、これらは複合面構造と呼ばれる。また、変位の増大に伴い、複合面構造の発達のみならず、剪断帯の厚化が生じることは広く知られている。さらに、剪断帯の内部には、複合面構造とは異なる、上盤もしくは下盤に沿って歪・変位が集中するboundary shearの形成が、フィールドでの断層の内部構造の観察や摩擦実験後の試料の観察により報告されている(例えば、Marone and Scholz, 1989; Niemeijer et al., 2010)。しかし、このboundary shearの発達の物理的描像およびその素過程について、ほとんど解明されていないのが現状である。そこで、本研究では、boundary shearの発達過程の解明を目的とし、以下に記す室内摩擦実験と数値解析を実施しつつある。

2.研究方法
室内岩石摩擦試験には、京都大学設置の回転式摩擦試験機を用いる。試料は粒径を24.95 μmに調整した人工石英砂を用い、すべり速度は0.07 m/s、垂直応力は5 MPa、すべり距離は最大10 m とする。実験開始時の模擬断層ガウジの厚さは約1 mm である。また、実験前後の試料の薄片を作成し、光学顕微鏡による変形組織の観察を行う。室内実験と並行して、フリーソフトウェアであるLIGGGHTSを用いて3次元個別要素法による摩擦実験を模擬した数値解析を行う。せん断の状態を定性的に表現する無次元量であるInertial numberを摩擦実験と数値解析においてほぼ同一にすることにより、スケール効果の除去を試みる。そのため、数値解析における粒子のヤング率とポアソン比は石英での実測値、時間ステップは0.0000007 s、粒径1, 1.5, 2 mm の粒子を計1700個(平均粒径1.2 mm)、すべり速度は0.16 m/s、垂直応力は25 MPaとする。この時、ガウジ厚は約17 mmであり、室内実験および数値解析におけるInertial numberの値はほぼ同一 (0.0004) である。

3.結果
室内摩擦実験は現在進行中であり、すべり距離を段階的にすることにより、その発達過程を精査する予定である。一方、数値解析では、摩擦係数の上昇、降下および定常状態という三段階の変化が見られ、定常状態の終盤においてガウジ層と圧力プレートとの境界付近に確認された粒子速度の明瞭な不連続面はboundary shearに相当すると考えられる(宮本ほか、2022)。

4.今後の計画
現在は摩擦実験実施に向けて斑糲岩を用いたブロックおよび実験中のシーリングのためのテフロンリングの製作を進めており、今後、実験に取り掛かる。発表ではその結果の速報と合わせて、数値解析の結果との比較から、boundary shearの発達と摩擦挙動、すべり距離、さらに粒子の状態(応力鎖や粒子速度の空間分布)の時間遷移との関係について精査した結果を報告する予定である。

参考文献
Marone, C. & Scholz, C.H. (1989). Particle-size distribution and microstructures within simulated fault gouge. Journal of Structural Geology, 11, 799-814.

Niemeijer, A., Marone, C., & Elsworth, D. (2010). Frictional strength and strain weakening in simulated fault gouge: Competition between geometrical weakening and chemical strengthening. Journal of Geophysical Research, 115, B10207.

宮本 英,廣野哲朗,湯川 諭,大橋聖和.(2022).数値解析および実験的手法による断層内における変形構造発達過程の物理的描像の解明.SSS07-06,日本地球惑星科学連合2022年大会.