日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S13. 地殻流体と地震

[S13P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S13P-01] 紀伊半島における三次元深部電気比抵抗構造に基づいた深部低周波微動発生領域の特徴

*渡部 熙1、上嶋 誠1、山口 覚2、臼井 嘉哉1、村上 英記3、小河 勉1、大志万 直人4、吉村 令慧4、相澤 広記5、塩崎 一郎6、笠谷 貴史7 (1. 東京大学地震研究所、2. 大阪市立大学大学院理学研究科、3. 高知大学、4. 京都大学防災研究所、5. 九州大学大学院理学研究院附属・地震火山観測研究センター、6. 鳥取大学大学院工学研究科、7. 海洋研究開発機構)

西南日本の前弧側に位置する紀伊半島には,活発な地震活動領域(群発地震・深部低周波地震(微動)・スロースリップ)や多様な3He/4He同位体比の高温泉,深部まで伸びる巨大な酸性岩体などが存在する.これらについては,沈み込むフィリピン海スラブや深部流体との関連性が指摘されている.したがって,紀伊半島の地下は,深部流体と地震活動との関係を理解するための重要な鍵を握っていると考えられる.本研究では,Yamaguchi et al. (2009)で使用されたデータを含む紀伊半島において取得されたNetwork-MT法データ(電場及び地磁気)を再解析し,紀伊半島で初となるNetwork-MT法データを用いた3次元広域深部比抵抗構造モデルを推定した.得られたモデルは,紀伊半島の多様な特徴にも対応した,より信頼性の高いものと考えられる.その結果から導かれた紀伊半島の地下構造に関する考察は,以下の通りである.

1.広域深部比抵抗構造から推定される深部流体の湧出機構
 紀伊半島の地下には,熊野大峰複合火成岩類に対応すると考えられる高比抵抗領域が存在し,地震波高速度領域や高重力異常領域ともよく対応する.また,その高比抵抗領域を囲むように低比抵抗領域が存在し,スラブ上面から地殻表層まで続く顕著な低比抵抗領域が存在している.このような低比抵抗領域の存在は,熊野大峰複合火成岩類の縁を囲むように湧出している高い3He/4He同位体比を示す高温泉がマントル起源であるという解釈と整合的である.このような地下比抵抗構造と地表における深部流体湧出箇所の特徴的な空間分布との対応から,紀伊半島の地下における流体の寄与が説明できる可能性がある.

2.深部低周波微動発生領域周辺における比抵抗構造
 紀伊半島では,Yamaguchi et al. (2009)やKinoshita (2018)をはじめ,幾つかの比抵抗構造調査が行われてきた.しかし,それらの結果は一致した見解には至っておらず,同一断面における深部低周波微動発生領域において,Yamaguchi et al. (2009)では顕著な低比抵抗領域が認められるのに対し,Kinoshita (2018)では顕著な高比抵抗値を示すなど,大きく異なる特徴を示した.そうした中で,本研究のモデルは,Yamaguchi et al. (2009)やKinoshita (2018)と同じ断面において,熊野大峰複合火成岩類に対応する高比抵抗領域とフィリピン海スラブの境界で深部低周波微動が発生していることを示唆する結果となった.熊野大峰複合火成岩類がスラブからの流体の上昇流を妨げることで間隙流体圧が高まり,深部低周波微動の発生につながっている可能性が考えられる.