10:00 〜 10:15
[S15-05] 条件付き敵対的生成ネットワークとスペクトルインバージョン解析による3成分の時刻歴波形群生成
1、はじめに
既報(Yamaguchi et al.(2024))では,条件付き敵対的生成ネットワーク(conditional generative adversarial networks; cGAN)とスペクトルインバージョン解析(generalized inversion technique; GIT)を組み合わせ,振幅特性と経時特性の両方にばらつきを有した時刻歴波形群を出力する手法(Site-Specific Ground-Motion waveform Generation; SS-GMG(図1))を提案している。この手法の課題は,出力が水平動1成分のみとなっている点である。本研究では,既報(Yamaguchi et al.(2024))の手法の出力を,水平動2成分と上下動,計3成分の時刻歴波形の組になるように拡張する。さらに,能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の観測記録を用い,出力波形の精度を検証する。
2、SS-GMGの拡張
既存手法であるSS-GMGにおいては,cGANにより基準化振幅を持つ時刻歴波形を出力し,GITによってフーリエ振幅スペクトルの平均と標準偏差を推定する。SS-GMGへの入力情報は地震に関する条件(モーメントマグニチュード,震源深さ,震源距離,観測点)であり,出力は時刻歴波形群である。
今回の拡張では,cGANから出力される基準化振幅波形を,水平動1方向を表す1つの波形から水平動2成分と上下動を表す3つの波形の組に拡張する。cGANはLoss関数にWasserstein距離を用いるConditional WaveGAN(Lee et al. (2018))のアーキテクチャを採用する。Generatorの出力と観測記録をそれぞれDiscriminatorに入力し,その出力の平均同士の差が小さくなるように学習することで,Generatorの出力と観測記録が近づくことを目指す。モデル構造としては,Generatorの出力層とDiscriminatorの入力層を1チャネルから3チャネルに変更することで3波形を扱うことができるようにする。cGANの学習に用いる観測記録は,Radial成分,Transverse成分,Vertical成分に分解し,3成分の最大振幅の絶対値で基準化する。
GITにおいては,水平動と上下動を同時にインバージョンし,それぞれの経験的サイト特性を評価する。なお,水平動は水平2成分のベクトル和から評価する。
3、能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の観測記録を用いた精度検証
拡張した本手法の精度を検証するために,能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の6,816記録を用いる。K-NET富来(ISK006)のある観測記録と同じ条件で生成した波形とそのフーリエ振幅スペクトルの比較を図2に示す。本手法によって生成したRadial,Transverse成分は,NS,EW成分に変換して比較する。Vertical成分はUD成分とそのまま対応する。それぞれ経時特性および周波数特性に観測記録と類似した特徴がみられる。
ここで,SS-GMGで評価されるのは地盤が線形と仮定した場合の波形群である。そのため,地盤の非線形化の影響が大きくなる大振幅時には,DYNEQを用いて工学的基盤相当(ここではVs = 400 m/sと仮定)まで引き戻し,非線形特性を仮定した地盤応答解析により地盤の非線形化を考慮した計算波形を評価する。ここでは線形の地盤を仮定した時の最大地表加速度が100 cm/s2以上の記録を対象とする。土の非線形特性は全国の多地点での原位置採取資料から評価した古山田・他(2003)の非線形特性パラメータを用いる。
本手法の拡張での3成分の出力により,震度の算出が可能になった。そこで6,816の観測記録に対し,震度によって精度比較を実施する(図3)。出力波形から求めた震度と観測波形から求めた震度の残差の標準偏差は0.512であり,既存手法と比較して同等以上の精度を持っているといえる。本手法による出力波形は観測点の固有の特性を反映しているためと考えられる。また、震度は波形から算出できる指標の一つに過ぎず、本手法の出力波形からは最大加速度や継続時間など多くの情報を得られるという利点がある。
4、まとめ
本検討では,SS-GMGの出力時刻歴波形を3成分に拡張し,震度での評価を可能にした。今後は海溝型地震や内陸地震など複数の地震タイプを考慮できるように改良を行う。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。
既報(Yamaguchi et al.(2024))では,条件付き敵対的生成ネットワーク(conditional generative adversarial networks; cGAN)とスペクトルインバージョン解析(generalized inversion technique; GIT)を組み合わせ,振幅特性と経時特性の両方にばらつきを有した時刻歴波形群を出力する手法(Site-Specific Ground-Motion waveform Generation; SS-GMG(図1))を提案している。この手法の課題は,出力が水平動1成分のみとなっている点である。本研究では,既報(Yamaguchi et al.(2024))の手法の出力を,水平動2成分と上下動,計3成分の時刻歴波形の組になるように拡張する。さらに,能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の観測記録を用い,出力波形の精度を検証する。
2、SS-GMGの拡張
既存手法であるSS-GMGにおいては,cGANにより基準化振幅を持つ時刻歴波形を出力し,GITによってフーリエ振幅スペクトルの平均と標準偏差を推定する。SS-GMGへの入力情報は地震に関する条件(モーメントマグニチュード,震源深さ,震源距離,観測点)であり,出力は時刻歴波形群である。
今回の拡張では,cGANから出力される基準化振幅波形を,水平動1方向を表す1つの波形から水平動2成分と上下動を表す3つの波形の組に拡張する。cGANはLoss関数にWasserstein距離を用いるConditional WaveGAN(Lee et al. (2018))のアーキテクチャを採用する。Generatorの出力と観測記録をそれぞれDiscriminatorに入力し,その出力の平均同士の差が小さくなるように学習することで,Generatorの出力と観測記録が近づくことを目指す。モデル構造としては,Generatorの出力層とDiscriminatorの入力層を1チャネルから3チャネルに変更することで3波形を扱うことができるようにする。cGANの学習に用いる観測記録は,Radial成分,Transverse成分,Vertical成分に分解し,3成分の最大振幅の絶対値で基準化する。
GITにおいては,水平動と上下動を同時にインバージョンし,それぞれの経験的サイト特性を評価する。なお,水平動は水平2成分のベクトル和から評価する。
3、能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の観測記録を用いた精度検証
拡張した本手法の精度を検証するために,能登半島地震の周辺領域で発生した内陸地震の6,816記録を用いる。K-NET富来(ISK006)のある観測記録と同じ条件で生成した波形とそのフーリエ振幅スペクトルの比較を図2に示す。本手法によって生成したRadial,Transverse成分は,NS,EW成分に変換して比較する。Vertical成分はUD成分とそのまま対応する。それぞれ経時特性および周波数特性に観測記録と類似した特徴がみられる。
ここで,SS-GMGで評価されるのは地盤が線形と仮定した場合の波形群である。そのため,地盤の非線形化の影響が大きくなる大振幅時には,DYNEQを用いて工学的基盤相当(ここではVs = 400 m/sと仮定)まで引き戻し,非線形特性を仮定した地盤応答解析により地盤の非線形化を考慮した計算波形を評価する。ここでは線形の地盤を仮定した時の最大地表加速度が100 cm/s2以上の記録を対象とする。土の非線形特性は全国の多地点での原位置採取資料から評価した古山田・他(2003)の非線形特性パラメータを用いる。
本手法の拡張での3成分の出力により,震度の算出が可能になった。そこで6,816の観測記録に対し,震度によって精度比較を実施する(図3)。出力波形から求めた震度と観測波形から求めた震度の残差の標準偏差は0.512であり,既存手法と比較して同等以上の精度を持っているといえる。本手法による出力波形は観測点の固有の特性を反映しているためと考えられる。また、震度は波形から算出できる指標の一つに過ぎず、本手法の出力波形からは最大加速度や継続時間など多くの情報を得られるという利点がある。
4、まとめ
本検討では,SS-GMGの出力時刻歴波形を3成分に拡張し,震度での評価を可能にした。今後は海溝型地震や内陸地震など複数の地震タイプを考慮できるように改良を行う。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。