11:00 〜 11:15
[S15-08] 2024年能登半島地震で観測された強震動とスペクトル距離減衰式の比較
1.はじめに
2024年1月1日に能登半島北岸域を震源とするM7.6の地震が発生し,能登半島を中心に地震動による被害が広範に見られた。同地震は地殻変動と津波を伴い,海域で地表まで地震断層が及んだ逆断層型の内陸地殻内地震と考えられる。Somerville (2003)は,既往のスペクトル距離減衰式と観測の偏差から,地表地震断層を伴う地震の方が伴わない地震よりも周期1秒帯域の地震動レベルが小さいことを指摘し,Kagawa et al. (2004)は浅いすべりの応力が小さく強震動を放射しないことに要因があるとした。吉田・他(2017)は日本国内のM6クラスの内陸地殻内地震でも同様の傾向が見られるものの,海外のM7クラスを対象とした検討よりも影響する周期が短周期であることを指摘している。今回,能登半島地震の観測記録でどのような傾向が見られるか,(国研)防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-net,気象庁が公開している自治体震度計を含む強震観測データの解析を試みたので報告する。
2.解析の概要
各地震観測点において,(国研)防災科学技術研究所の震源断層モデルによる断層最短距離で100km以内,AVS30で400m/s以上の硬質サイトをのものを用いた。AVS30はK-NET,KiK-netは公開地盤モデルから(K-NETはKanno (2006)に基づいてAVS20を換算,20mに満たないものは最深部速度を20mまでとした),気象庁および自治体サイトはJ-SHISによる該当メッシュの値を用いて設定し,400m/s以上の硬質地盤を対象とした。結果として35点が選定された。その分布を図に示す。スペクトル距離減衰式としては,断層上盤効果を評価できる米国NGAモデルのAbrahamson and Silva (2008)を採用した。なお,上盤効果に関しては2009年発表の修正項を用いた。
3.解析結果
結果を図に示す。細線が各点におけるAbrahamson and Silva (2008)に対するスペクトル比,太線がそれらの平均を示す。周期1秒以下の短周期が有意に大きく,地表地震断層を伴う地震としては既往検討とは異なった結果となった。周期2秒以上については平均をやや下回ってっているが,ばらつきが大きい。吉田・他(2017)による2007年能登半島地震の解析結果は,地表地震断層を伴わない地震ではあるものの同様の傾向を示しており,地域特性を強く反映していることも考えられる。
4.おわりに
2024年1月1日に能登半島地震の応答スペクトルは,地表地震断層を伴うものとしては既往検討とは異なる傾向を示した。短周期が大きいことについては,観測点が逆断層の上盤側に集中している影響が十分に補正されているか,および震源として平均よりも強く短周期を放射しているのかについて,吉田・他 (2024,地震学会秋季大会予稿)によるSMGAモデルの解釈と併せて検討を試みたい。周期2秒以上には極端にスペクトル比が小さいサイトが複数あり,これらが石川・富山・岐阜県境の白山周辺に集中していることが分かっているので,サイト増幅特性からの検討も実施したい。
謝辞
観測記録として,(国研)防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-net,気象庁が公開している自治体震度計を含む強震観測データを利用しました。断層モデルは(国研)防災科学技術研究所の公開データを利用しました。本研究は,科研費(課題番号:24K07156,23K26186,22K04648)の一環として実施しました。関係各位に感謝致します。
参考文献
Abrahamson, N. A. and Silva, W. J., Earthquake Spectra, 241, 67-97, 2008. Abrahamson, N. A. and Silva, W. J., Errata for Abrahamson and Silva (2008), 2009. Kagawa, T., Irikura, K., Somerville, P. G., Earth Planets Space, 56, 3-14, 2004. Kanno, T. , Narita, A., Morikawa, N., Fujiwara, H., Fukushima, Y., BSSA, 96, 879-897, 2006. Somerville, P. G., Phys. Earth Planet. Int., 137, 201–212, 2003. 吉田昌平・香川敬生・野口竜也,土木学会論文集A1, 73(4), I_366-I_375, 2017.
2024年1月1日に能登半島北岸域を震源とするM7.6の地震が発生し,能登半島を中心に地震動による被害が広範に見られた。同地震は地殻変動と津波を伴い,海域で地表まで地震断層が及んだ逆断層型の内陸地殻内地震と考えられる。Somerville (2003)は,既往のスペクトル距離減衰式と観測の偏差から,地表地震断層を伴う地震の方が伴わない地震よりも周期1秒帯域の地震動レベルが小さいことを指摘し,Kagawa et al. (2004)は浅いすべりの応力が小さく強震動を放射しないことに要因があるとした。吉田・他(2017)は日本国内のM6クラスの内陸地殻内地震でも同様の傾向が見られるものの,海外のM7クラスを対象とした検討よりも影響する周期が短周期であることを指摘している。今回,能登半島地震の観測記録でどのような傾向が見られるか,(国研)防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-net,気象庁が公開している自治体震度計を含む強震観測データの解析を試みたので報告する。
2.解析の概要
各地震観測点において,(国研)防災科学技術研究所の震源断層モデルによる断層最短距離で100km以内,AVS30で400m/s以上の硬質サイトをのものを用いた。AVS30はK-NET,KiK-netは公開地盤モデルから(K-NETはKanno (2006)に基づいてAVS20を換算,20mに満たないものは最深部速度を20mまでとした),気象庁および自治体サイトはJ-SHISによる該当メッシュの値を用いて設定し,400m/s以上の硬質地盤を対象とした。結果として35点が選定された。その分布を図に示す。スペクトル距離減衰式としては,断層上盤効果を評価できる米国NGAモデルのAbrahamson and Silva (2008)を採用した。なお,上盤効果に関しては2009年発表の修正項を用いた。
3.解析結果
結果を図に示す。細線が各点におけるAbrahamson and Silva (2008)に対するスペクトル比,太線がそれらの平均を示す。周期1秒以下の短周期が有意に大きく,地表地震断層を伴う地震としては既往検討とは異なった結果となった。周期2秒以上については平均をやや下回ってっているが,ばらつきが大きい。吉田・他(2017)による2007年能登半島地震の解析結果は,地表地震断層を伴わない地震ではあるものの同様の傾向を示しており,地域特性を強く反映していることも考えられる。
4.おわりに
2024年1月1日に能登半島地震の応答スペクトルは,地表地震断層を伴うものとしては既往検討とは異なる傾向を示した。短周期が大きいことについては,観測点が逆断層の上盤側に集中している影響が十分に補正されているか,および震源として平均よりも強く短周期を放射しているのかについて,吉田・他 (2024,地震学会秋季大会予稿)によるSMGAモデルの解釈と併せて検討を試みたい。周期2秒以上には極端にスペクトル比が小さいサイトが複数あり,これらが石川・富山・岐阜県境の白山周辺に集中していることが分かっているので,サイト増幅特性からの検討も実施したい。
謝辞
観測記録として,(国研)防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-net,気象庁が公開している自治体震度計を含む強震観測データを利用しました。断層モデルは(国研)防災科学技術研究所の公開データを利用しました。本研究は,科研費(課題番号:24K07156,23K26186,22K04648)の一環として実施しました。関係各位に感謝致します。
参考文献
Abrahamson, N. A. and Silva, W. J., Earthquake Spectra, 241, 67-97, 2008. Abrahamson, N. A. and Silva, W. J., Errata for Abrahamson and Silva (2008), 2009. Kagawa, T., Irikura, K., Somerville, P. G., Earth Planets Space, 56, 3-14, 2004. Kanno, T. , Narita, A., Morikawa, N., Fujiwara, H., Fukushima, Y., BSSA, 96, 879-897, 2006. Somerville, P. G., Phys. Earth Planet. Int., 137, 201–212, 2003. 吉田昌平・香川敬生・野口竜也,土木学会論文集A1, 73(4), I_366-I_375, 2017.