[S15P-10] 地震動予測式で仮定される距離減衰特性が地震動評価結果へ及ぼす影響
1.背景と目的
地震動予測式(以下,GMPE)は数少ないパラメータで平均的な地震動レベルを簡便に評価できるため,詳細な地震動シミュレーション結果の検証に用いられることが多い。また,近年では実際に発生した地震の特徴を調べる用途にも広く用いられている。一方,GMPEは地震規模や震源距離,地震の種類や地域などそれぞれ適用範囲が異なる式が多数提案されており,その特徴を理解した上で適切に使い分けることが重要とされている。現在,原子力関係施設の耐震設計では応答スペクトルのGMPE としてNoda et al.(2002)(以下,耐専スペクトル)が用いられている。土方ほか(2010)では柏崎刈羽原子力発電所において耐専スペクトルに対する観測記録の応答スペクトル比(はぎとり波/耐専スペクトル)は2007年新潟県中越沖地震を含む海域の地震と2004年新潟県中越地震を含む陸域の地震では傾向が異なることが報告されており,その要因として震源特性や伝播特性が異なること等が挙げられている。
本検討では,伝播特性のQ値の影響について着目して中越地域を中心とした広域の観測点を対象に耐専スペクトルによる地震動評価結果と観測記録の比較を行い,耐専スペクトルと中越地域のQ値の違いによる地震動評価結果への影響について検討する。
2.検討方法
本検討では表1に示すM6程度の地震を対象に図1の広域の観測点において耐専スペクトルに対する観測記録の応答スペクトル比を算定する。次に,その空間分布の特徴から伝播特性の影響について検討する。また,その他のGMPEとしてNGA-West2からBoore et al.(2014)(以下,BSSA14)による評価との比較を行う。応答スペクトル比の算定に用いる観測記録は等価震源距離Xeqが200km以下の記録とし,地盤同定により推定した最適化地盤モデルを用いたはぎとり解析により地中地震計深さ以浅の影響を除いた2E波(以下,はぎとり波)を用いる。また,伝播特性の影響が大きい帯域として周期0.02~0.5秒の短周期地震動を対象とする。
3.検討結果
3.1 耐専スペクトルに対するはぎとり波の応答スペクトル比
本検討では応答スペクトル比は耐専スペクトルに対するはぎとり波の水平2成分平均を周期0.02~0.5秒の幅で幾何平均化した値を用いる。ただし,GMPEに対する観測記録の比率には観測点固有のサイト増幅特性が影響するため,観測点間の比較ではばらつきが大きくなる。そこで,本検討では観測点毎に算出した比率の全地震平均をサイト増幅特性とみなして,個々の地震の比率から除することでサイト増幅特性の補正を行った。図2に応答スペクトル比とそのばらつきを示す。図2(a)の青丸は2011年・2014年の長野県北部の地震であり,他の地震と比べて明らかに小さい。このため図2(b)に示した平均とばらつき(±1σ)ではこれら2地震を除いたデータを基に10km間隔の範囲で算出した。応答スペクトル比のばらつきはXeqが50km程度以下や100km付近で大きくなっている。Xeqが50km程度以下の記録の大半が中越地域の地震(中越沖地震や中越地震およびこれらの余震)であったことから,例として図3に中越沖地震と中越地震における応答スペクトル比の空間分布を示す。中越沖地震では震源の南東側,中越地震では震源の北西側で小さくなっており,耐専スペクトルが過大評価している傾向が確認できる。図4に示すようにBSSA14でも同様の傾向を示している。方位依存性が現れる要因として震源の破壊伝播効果があるが,金田ほか(2023)ではM6程度の地震の破壊伝播効果の影響は周期0.5秒以上で現れることが確認されており,今回対象としている周期帯では影響は小さいと考えられ,中越沖地震と中越地震の間の伝播特性の影響が考えられる。
3.2 耐専スペクトルと中越地域の伝播特性のQ値の比較
既往研究に基づいて耐専スペクトルで仮定されるQ値と中越地域のQ値の比較を行う。図5に既往の伝播特性のQ値を示す。耐専スペクトルに関しては,式の元となるGMPEについて高橋ほか(1998)によりQ=120f0.85程度であることが報告されている。一方,中越地域に関しては既往研究により複数の結果が得られているが,その範囲はQ=20f0.8~80f0.8程度で耐専スペクトルに比べて低く,耐専スペクトルが過大評価となる要因の一つと考えられる。伝播特性のQ値の違いによる地震動評価結果への影響については発表時に報告する。
4.まとめ
中越地域を含む広域の観測点を対象にM6程度の地震における応答スペクトル比(はぎとり波/耐専スペクトル)を算出し,その空間分布から中越地域では耐専スペクトルが過大評価となることがわかった。また,既往研究から中越地域における伝播特性のQ値は耐専スペクトルに比べて低い可能性が示唆され,過大評価となる要因の一つと考えられた。発表の際には,伝播特性のQ値の違いによる地震動評価結果への影響について報告する。
謝辞
防災科学技術研究所による地震記録を使用させていただきました。一部の図の作成にあたってはGMTを使用しました。ここに,記してお礼申し上げます。
地震動予測式(以下,GMPE)は数少ないパラメータで平均的な地震動レベルを簡便に評価できるため,詳細な地震動シミュレーション結果の検証に用いられることが多い。また,近年では実際に発生した地震の特徴を調べる用途にも広く用いられている。一方,GMPEは地震規模や震源距離,地震の種類や地域などそれぞれ適用範囲が異なる式が多数提案されており,その特徴を理解した上で適切に使い分けることが重要とされている。現在,原子力関係施設の耐震設計では応答スペクトルのGMPE としてNoda et al.(2002)(以下,耐専スペクトル)が用いられている。土方ほか(2010)では柏崎刈羽原子力発電所において耐専スペクトルに対する観測記録の応答スペクトル比(はぎとり波/耐専スペクトル)は2007年新潟県中越沖地震を含む海域の地震と2004年新潟県中越地震を含む陸域の地震では傾向が異なることが報告されており,その要因として震源特性や伝播特性が異なること等が挙げられている。
本検討では,伝播特性のQ値の影響について着目して中越地域を中心とした広域の観測点を対象に耐専スペクトルによる地震動評価結果と観測記録の比較を行い,耐専スペクトルと中越地域のQ値の違いによる地震動評価結果への影響について検討する。
2.検討方法
本検討では表1に示すM6程度の地震を対象に図1の広域の観測点において耐専スペクトルに対する観測記録の応答スペクトル比を算定する。次に,その空間分布の特徴から伝播特性の影響について検討する。また,その他のGMPEとしてNGA-West2からBoore et al.(2014)(以下,BSSA14)による評価との比較を行う。応答スペクトル比の算定に用いる観測記録は等価震源距離Xeqが200km以下の記録とし,地盤同定により推定した最適化地盤モデルを用いたはぎとり解析により地中地震計深さ以浅の影響を除いた2E波(以下,はぎとり波)を用いる。また,伝播特性の影響が大きい帯域として周期0.02~0.5秒の短周期地震動を対象とする。
3.検討結果
3.1 耐専スペクトルに対するはぎとり波の応答スペクトル比
本検討では応答スペクトル比は耐専スペクトルに対するはぎとり波の水平2成分平均を周期0.02~0.5秒の幅で幾何平均化した値を用いる。ただし,GMPEに対する観測記録の比率には観測点固有のサイト増幅特性が影響するため,観測点間の比較ではばらつきが大きくなる。そこで,本検討では観測点毎に算出した比率の全地震平均をサイト増幅特性とみなして,個々の地震の比率から除することでサイト増幅特性の補正を行った。図2に応答スペクトル比とそのばらつきを示す。図2(a)の青丸は2011年・2014年の長野県北部の地震であり,他の地震と比べて明らかに小さい。このため図2(b)に示した平均とばらつき(±1σ)ではこれら2地震を除いたデータを基に10km間隔の範囲で算出した。応答スペクトル比のばらつきはXeqが50km程度以下や100km付近で大きくなっている。Xeqが50km程度以下の記録の大半が中越地域の地震(中越沖地震や中越地震およびこれらの余震)であったことから,例として図3に中越沖地震と中越地震における応答スペクトル比の空間分布を示す。中越沖地震では震源の南東側,中越地震では震源の北西側で小さくなっており,耐専スペクトルが過大評価している傾向が確認できる。図4に示すようにBSSA14でも同様の傾向を示している。方位依存性が現れる要因として震源の破壊伝播効果があるが,金田ほか(2023)ではM6程度の地震の破壊伝播効果の影響は周期0.5秒以上で現れることが確認されており,今回対象としている周期帯では影響は小さいと考えられ,中越沖地震と中越地震の間の伝播特性の影響が考えられる。
3.2 耐専スペクトルと中越地域の伝播特性のQ値の比較
既往研究に基づいて耐専スペクトルで仮定されるQ値と中越地域のQ値の比較を行う。図5に既往の伝播特性のQ値を示す。耐専スペクトルに関しては,式の元となるGMPEについて高橋ほか(1998)によりQ=120f0.85程度であることが報告されている。一方,中越地域に関しては既往研究により複数の結果が得られているが,その範囲はQ=20f0.8~80f0.8程度で耐専スペクトルに比べて低く,耐専スペクトルが過大評価となる要因の一つと考えられる。伝播特性のQ値の違いによる地震動評価結果への影響については発表時に報告する。
4.まとめ
中越地域を含む広域の観測点を対象にM6程度の地震における応答スペクトル比(はぎとり波/耐専スペクトル)を算出し,その空間分布から中越地域では耐専スペクトルが過大評価となることがわかった。また,既往研究から中越地域における伝播特性のQ値は耐専スペクトルに比べて低い可能性が示唆され,過大評価となる要因の一つと考えられた。発表の際には,伝播特性のQ値の違いによる地震動評価結果への影響について報告する。
謝辞
防災科学技術研究所による地震記録を使用させていただきました。一部の図の作成にあたってはGMTを使用しました。ここに,記してお礼申し上げます。