日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S17. 津波

[S17] AM-2

2024年10月23日(水) 10:45 〜 12:15 B会場 (3階中会議室301)

座長:水谷 歩(東北大学)、上谷 政人(徳島大学)

11:45 〜 12:00

[S17-05] 津波痕跡高と非線形津波インバージョン法による2024年能登半島地震の津波波源モデルの推定

*上谷 政人1、馬場 俊孝1、有田 守2、由比 政年3、楳田 真也3、二宮 順一3、二木 敬右3 (1. 徳島大学、2. 金沢工業大学、3. 金沢大学)

2024年1月1日16時10分(JST),石川県能登半島を震源とするM7.6の地震が発生した.この地震では,2011年の東北地方太平洋沖地震以来13年ぶりに津波の浸水が観測された.輪島では陸地の隆起,珠洲市長橋では観測施設の破損により,津波波形を正確に記録できなかった.これまでに,津波を再現する断層モデルがいくつか提案されているが(e.g., Fujii and Satake, 2024; Masuda et al., 2024),津波波形だけでなく,津波痕跡高も再現する断層モデルは提案されていない.本研究では,非線形津波インバージョン法を用いて,2024年能登半島地震で観測された津波痕跡高を再現する断層モデルを推定することを目的とする.
本研究では,非線形長波式を用いて津波計算を行い,計算時間は6時間,時間幅は0.1秒,マニングの粗度係数は0.025 s/m^(1/3)と設定した.地形データには,格子間隔が最大2430mから最小10mまでの6層ネスティングシステムを採用した.津波の初期水位分布には,半無限均質弾性体モデル(Okada, 1985)で計算した地殻変動に海底斜面の水平変位による津波励起の効果 (Tanioka and Satake, 1996)を考慮し,Kajiuraフィルタ (Kajiura,1963)を適用したものを使用した.津波痕跡高データはYuhi et al. (2024)により公開されたデータを用いた.この中で,信頼度A・Bを満たすMSL基準の津波痕跡高262地点分を使用した.さらに,本研究チームが舳倉島で調査した津波痕跡高データ(44地点)も利用した.津波波形の観測データは,国土地理院,UNESCO IOC,NOWPHASから取得し,14400秒(0.000069444Hz)のハイパスフィルタを適用した.津波波形の比較には,16 時 10 分~22 時 10 分までの 6 時間分(1分間隔)を使用した.国土地理院の柏崎はフロート式の験潮場であり,Masuda et al. (2024)で応答特性の影響が指摘されている.そこで,柏崎の観測津波波形に関しては,Namegaya et al. (2009)を参考に補正波形を求めた.
本研究で使用する非線形津波インバージョン法は,イタレーションごとに断層パラメータのすべり量を元に非線形長波式による津波の伝番・遡上を含めた数値計算を実施し,フォワード計算による計算値と津波痕跡高に相当する観測値の残差から,レーベンバーグ・マーカート法(Levenberg, 1944; Marquardt, 1963)ですべり量の修正量を求めることで,断層パラメータのすべり量を逐次修正する.解析に使用する初期断層モデルには,MLIT(2014)が提案したF42,F43の4枚の断層モデルを用いた.すべり量はそれぞれ3.1mと4.5mである.本研究で最適化するパラメータはこの4つの断層のすべり量とした.
推定された断層モデルは能登半島における津波痕跡高を良好に再現し,新潟県上越市で観測された局所的に高い津波痕跡高の再現性も向上した.本研究の断層モデルにおいて,F42東側の断層のすべり量は小さくその値は0.24mであった.一方で,F42西側の断層で5.74mの最大すべり量が見られたことが特徴的であり,この断層のすべり量は新潟県における津波痕跡高を再現するために必要であった(図a).また,F43東側の断層のすべり量は2.32m,F43西側の断層のすべり量は1.71mであり,舳倉島の調査で得られた津波痕跡高を良好に再現した.この断層モデルを用いた計算津波高と津波痕跡高に対するK-κの値は1.00-1.45であり,土木学会(2002)による基準である0.95<K<1.05,κ<1.45を満たした(図b).本研究の断層モデルは断層の剛性率を34GPaした場合,マグニチュードは7.46であり,MLITモデルの7.66よりも小さい値となった.このことから,MLITモデルのF43の断層のすべり量4.5mは過大評価であったと考えられる.津波波形に関しても,観測データを良好に再現しており,津波痕跡高のみを用いて推定した断層モデルにもかかわらず,直江津・柏崎の最大波を再現し,6時間分の観測津波波形の減衰の特徴を捉えられている(図c).以上より,津波痕跡高を再現する為には,F42西側の断層に相当する場所において,大きな津波波源が必要であり,2024年能登半島地震におけるF42西側の断層の破壊の可能性が示唆された.