12:00 〜 12:15
[S17-06] 令和6年能登半島地震における富山湾北東部に襲来した津波第一波の励起過程
はじめに
2024年1月1日の能登半島地震(Mw7.5)は能登半島北部の海底活断層沿いに発生し,北部沿岸は200人を超える死者を伴う大災害を被った.この地震により能登半島北部は最大4mの大きな隆起を伴ったことがALOS-2のSAR解析や現地調査により明らかになった.さらにGNSS観測やSAR解析により西向きに最大3mの地殻変動が発生したことが明らかになっている.また,地震により発生した津波も能登半島沿岸で大きく,浸水被害も発生した.富山湾や北陸沿岸でも津波が観測されており,それらの波形を利用して海底活断層でのすべり量分布も推定されている(Fujii and Satake, 2024).Fujii and Satake(2024)は,富山には断層モデルからの津波よりも10分以上早く到達した津波があったことも指摘している.これらの早く到達した津波は強震動による海底地すべりが一因であることも明らかになりつつある.これらの観測結果を踏まえつつ,本研究では,富山湾の西部・能登半島東岸沖に存在する急峻な海底地形に注目した(図).この急峻な地形は南西―北東方向に伸びており,この海底傾斜面が地震時地殻変動により北西方向に移動することによる津波の励起を検討する.そこで,本研究では,まずTanioka and Satake (1996)の手法によりこの海底傾斜面の水平変動による津波の励起を津波数値計算によりモデル化し,励起された津波がどの程度であるかを評価する.さらに,この津波が観測される振幅に達する沿岸域を特定し,その地域の観測データを収集し,計算結果と比較することで,上記津波の励起過程を明らかにする.
データ
津波観測データとして,まず生地検潮所の1分間隔観測データを利用した.次に,田中での海象計のデータから短周期の波を除くために1分間の移動平均をかけたデータを利用した.さらに,黒部川右岸に設置されたCCTVカメラには黒部川の河口の様子が撮影されており,そこには川の中の砂州が存在し,目視でも津波により砂州が水面下に沈む様子が確認できた.砂州が水面下に沈む前の時間帯で,画像内の砂州と水面の境界を画像処理により判別することができれば,水面変動が推定できると考え,画像処理結果もデータとして利用した.つまり,生地・田中・黒部川でのデータを利用した.津波数値計算に利用する断層モデルとしてGNSS観測データを非常に良く説明している国土地理院によるモデル(第3報)を採用した.本研究では能登半島東岸沖に存在する海底傾斜面の地殻変動を最も良く再現できる断層モデルを用いる必要があるため,上記国土地理院の断層モデルが最適である.
結果
海底地形面の傾斜が地震時水平変動により移動することで津波を励起するモデル(Tanioka and Satake 1996)により計算された津波は,富山湾の北東部(黒部川河口周辺沿岸)でのみ,観測されても良い程度の津波が襲来することが確認された.つまり,それ以外の地域,例えばFujii and Satake (2024)が利用している観測データには,本研究の津波は影響をあたえないことが明らかになった.また,富山の観測データにも影響を与えないことも明らかになった.さらに,黒部川河口周辺域で収集した,生地の検潮データや田中の海象計のデータは第1波の観測津波が数値計算により再現できることが分かった.また,黒部川右岸から撮影したカメラ映像の解析により水面変動を推定したデータも定性的には説明可能であることが分かった.
結論
能登半島東岸沖に存在する急峻な海底斜面が地震時水平地殻変動により移動することで津波が励起され,富山湾北東部(黒部川河口周辺沿岸)に襲来した.この津波は地震断層モデルの上下変動から励起される津波より早く富山湾北東部に到達した.令和6年能登半島地震のように断層とは反対側まで大きな地殻変動が及びかつそこに急峻な海底斜面が存在する場合は津波予測として津波の励起を考慮する必要がある.
文献
Fujii, Y. and Satake, K. Slip distribution of the 2024 Noto Peninsula earthquake (MJMA 7.6) estimated from tsunami waveforms and GNSS data. Earth Planets Space 76, 44 (2024). https://doi.org/10.1186/s40623-024-01991-z
Tanioka Y, and Satake K (1996) Tsunami generation by horizontal displacement of ocean bottom. Geophys Res Lett 23(8):861–864
謝辞
観測・映像データは国土交通省北陸地方整備局からご提供いただきました.
2024年1月1日の能登半島地震(Mw7.5)は能登半島北部の海底活断層沿いに発生し,北部沿岸は200人を超える死者を伴う大災害を被った.この地震により能登半島北部は最大4mの大きな隆起を伴ったことがALOS-2のSAR解析や現地調査により明らかになった.さらにGNSS観測やSAR解析により西向きに最大3mの地殻変動が発生したことが明らかになっている.また,地震により発生した津波も能登半島沿岸で大きく,浸水被害も発生した.富山湾や北陸沿岸でも津波が観測されており,それらの波形を利用して海底活断層でのすべり量分布も推定されている(Fujii and Satake, 2024).Fujii and Satake(2024)は,富山には断層モデルからの津波よりも10分以上早く到達した津波があったことも指摘している.これらの早く到達した津波は強震動による海底地すべりが一因であることも明らかになりつつある.これらの観測結果を踏まえつつ,本研究では,富山湾の西部・能登半島東岸沖に存在する急峻な海底地形に注目した(図).この急峻な地形は南西―北東方向に伸びており,この海底傾斜面が地震時地殻変動により北西方向に移動することによる津波の励起を検討する.そこで,本研究では,まずTanioka and Satake (1996)の手法によりこの海底傾斜面の水平変動による津波の励起を津波数値計算によりモデル化し,励起された津波がどの程度であるかを評価する.さらに,この津波が観測される振幅に達する沿岸域を特定し,その地域の観測データを収集し,計算結果と比較することで,上記津波の励起過程を明らかにする.
データ
津波観測データとして,まず生地検潮所の1分間隔観測データを利用した.次に,田中での海象計のデータから短周期の波を除くために1分間の移動平均をかけたデータを利用した.さらに,黒部川右岸に設置されたCCTVカメラには黒部川の河口の様子が撮影されており,そこには川の中の砂州が存在し,目視でも津波により砂州が水面下に沈む様子が確認できた.砂州が水面下に沈む前の時間帯で,画像内の砂州と水面の境界を画像処理により判別することができれば,水面変動が推定できると考え,画像処理結果もデータとして利用した.つまり,生地・田中・黒部川でのデータを利用した.津波数値計算に利用する断層モデルとしてGNSS観測データを非常に良く説明している国土地理院によるモデル(第3報)を採用した.本研究では能登半島東岸沖に存在する海底傾斜面の地殻変動を最も良く再現できる断層モデルを用いる必要があるため,上記国土地理院の断層モデルが最適である.
結果
海底地形面の傾斜が地震時水平変動により移動することで津波を励起するモデル(Tanioka and Satake 1996)により計算された津波は,富山湾の北東部(黒部川河口周辺沿岸)でのみ,観測されても良い程度の津波が襲来することが確認された.つまり,それ以外の地域,例えばFujii and Satake (2024)が利用している観測データには,本研究の津波は影響をあたえないことが明らかになった.また,富山の観測データにも影響を与えないことも明らかになった.さらに,黒部川河口周辺域で収集した,生地の検潮データや田中の海象計のデータは第1波の観測津波が数値計算により再現できることが分かった.また,黒部川右岸から撮影したカメラ映像の解析により水面変動を推定したデータも定性的には説明可能であることが分かった.
結論
能登半島東岸沖に存在する急峻な海底斜面が地震時水平地殻変動により移動することで津波が励起され,富山湾北東部(黒部川河口周辺沿岸)に襲来した.この津波は地震断層モデルの上下変動から励起される津波より早く富山湾北東部に到達した.令和6年能登半島地震のように断層とは反対側まで大きな地殻変動が及びかつそこに急峻な海底斜面が存在する場合は津波予測として津波の励起を考慮する必要がある.
文献
Fujii, Y. and Satake, K. Slip distribution of the 2024 Noto Peninsula earthquake (MJMA 7.6) estimated from tsunami waveforms and GNSS data. Earth Planets Space 76, 44 (2024). https://doi.org/10.1186/s40623-024-01991-z
Tanioka Y, and Satake K (1996) Tsunami generation by horizontal displacement of ocean bottom. Geophys Res Lett 23(8):861–864
謝辞
観測・映像データは国土交通省北陸地方整備局からご提供いただきました.