日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S17. 津波

[S17P] PM-P

2024年10月22日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S17P-09] 沖合津波波形で拘束した津波波源を用いた沿岸津波波形逆解析の評価

*対馬 弘晃1、林 豊1、山本 剛靖1 (1. 気象庁気象研究所)

沿岸津波波形の線形逆解析は,津波波源の推定手法として広く活用されている.この手法では,津波第一波には津波伝播の非線形性がほぼ効かないと仮定して線形逆解析が行われるが,近年の研究によって,第一波波形でも非線形性が無視できないこと(Yue et al., 2015, JGR; 対馬・他,2022, JpGU),なかでも移流の影響が強いこと(Yamanaka et al., 2023, CEJ)が示され,その改善のための逆解析手法も提案されている(Yamanaka & Tanioka, 2024, EPS).他方,東日本大震災以降,日本近海の海底観測網が充実して大量の沖合津波波形が得られ,津波波源が高精度に推定できるようになった(Kubota et al., 2021, JGR).こうした波源を正解とみなして比較することで,沿岸津波波形逆解析の性能を詳細に評価できる.この考えに則り,対馬・他 (2022, JpGU)は,沖合・沿岸波形データが豊富な2016年福島県沖地震(Mw 6.9)を解析し,現実の沿岸津波波形の第一波が非線形性に強く影響される場合があること,それが起因して初期水位の推定量が過小になったり,偽波源が求まることを示した.本研究は,この研究を拡張して,初期水位分布の推定が悪化する原因をより深く分析するとともに,その悪化を改善する簡便な方法を提案する.

2016年福島県沖地震(Mw 6.9)を対象とし,日本列島太平洋岸の波浪計9点,潮位計11点の沿岸津波波形を用いた.逆解析で推定する津波波源は,断層すべり分布ではなく初期水位分布とした.仮定する断層面の誤差が,波形逆解析の性能評価の妨げになることを避けるためである.波形逆解析には,対馬・他 (2022, JpGU)と同様,赤池ベイズ情報量規準を用いたベイズ逆解析(Yabuki & Matsu’ura, 1992)を用い,データ誤差共分散行列はDuputel (2012, GJI)の手法で構築した.初期水位分布を表現するための海面要素は,余震分布を概ね網羅する範囲に設定した.

まず,沿岸津波波形第一波のうち,非線形性の影響が強い部分を除外して逆解析を行った.当該部分の選定は,沖合波形から求めた波源を用いた線形・非線形津波計算結果の比較に基づく.逆解析の結果,主波源である沈降域での上下変位量の過小評価が改善し,沖合波形から求めた沈降量と同程度になった.これは,初期水位量の過小評価が非線形性に起因することを意味する.一方,主沈降域周辺の偽波源は解消しなかった.すなわち,波源精度悪化の原因が非線形性のみではないことを示す.そこで,沿岸波形から拘束しづらい場所に偽波源が生じている可能性を考え,沿岸観測点の津波到達時刻を用いて逆伝播した結果,顕著な偽波源の多くは逆伝播波面で囲まれる範囲(波源域の候補)の外に位置した.さらに,逆伝播波面で囲まれる範囲に解析領域を限定し,かつ,非線形性が弱い波形部分のみ用いて逆解析した結果,沖合波形から求まる波源に比肩する初期水位分布が推定され,沖合津波波形も概ね再現できた.

本研究により,2016年福島県沖地震の事例で,沿岸津波波形逆解析で求めた波源の精度が悪い原因は,非線形性の無視と沿岸波形による波源への拘束が弱いことであると示された.また,逆解析に入力する波形部分の選定と,解析対象領域の設定を工夫すれば,沿岸波形から初期水位分布を高精度に推定できることも明らかになった.本研究では,非線形性の影響が強い部分の選定には,沖合波形から求めた波源を用いたが,沿岸波形第一波全体から推定した波源で代用しても,同様の波形部分を選定できうることは確認済みである.したがって,本研究で示した工夫は,沿岸波形のみ利用できる状況でも適用可能であり,沖合観測網の少ない日本海や海外で起きた津波の初期水位分布の推定にも貢献するものと期待できる.