日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S21P-05] 深層学習による単観測点地震波形からのテクトニック微動の位置推定

*杉井 天音1、平松 良浩1 (1. 金沢大学)

・はじめに
スロースリップイベント、超低周波地震、低周波地震、および微動を含むスロー地震は、2000年ごろに沈み込み帯で発見された以来、巨大地震とスロー地震の関係を解明するために地震学や測地学で広く研究されてきた(例: Obara and Kato, 2016)。微動は通常、複数の観測点の波形データを使用して震源決定される。(例: Maeda and Obara et al., 2009; Obara, 2002)。しかし、観測点が少ない地域での微動の検出および震源決定は困難であり、スロー地震の理解を妨げている。高周波および低周波成分の相互相関を使用した方法が、単一観測点で微動を検出するために提案されている(Masuda et al., 2023)が、単一観測点で微動の震源を推定することはまだ達成されていない。最近の研究では、深層学習を用いた微動の検出(例: Nakano et al., 2019; Rouet-Leduc et al., 2020; Takahashi et al., 2021)、単一観測点データを用いて通常の地震の震央を数キロの誤差で推定することに成功している(例: Elsayed et al., 2023; Mousavi et al., 2020)。本研究では、深層学習を使用し単一観測点の波形データから微動の震央を推定する方法を開発する。

・データと方法
対象地域は紀伊半島および東海である。これらの地域で2013年から2016年に発生したテクトニック微動を使用した。2013年から2015年までのデータをモデルの学習と検証に使用し、2016年のデータをテストに使用した。微動の震央はエンベロープ相関法(Mizuno et al., 2019)によって決定されたものを正解値として使用した。本研究で使用した波形データは、これらの地域の49のHi-net観測点から取得した3成分速度波形である。各観測点から震央までの距離が45 km以内の微動を使用した。波形の時間窓は、微動カタログに記載された発生時刻から60秒に設定した。本研究では、ConvMixerの改良版(Trockman and Kolter et al., 2022)を使用し、損失関数としてMean Absolute Errorを使用した。モデルは、標準化された3成分速度波形を入力とし、観測点と微動震央の緯度と経度の差を出力する。このモデルは2,736,642個のパラメータを持つ。

・結果と考察
モデルは102,783個の3成分速度波形を用いて学習され、18,138個の検証データで最小の損失値を持つモデルが採用された。予測された震央と実際の震央との平均緯度差と経度差はそれぞれ0.0009度、0.0006度であった。また、平均震央距離差は10.8 km±9.3 kmであった。学習に使用されていない2016年の微動波形 (31,093個)にモデルを適用した場合、平均緯度差と経度差はそれぞれ0.0009度と0.0004度であり、平均震央距離差は11.9 km ± 10.2 kmであった。これらの結果は、モデルの高い汎化性能を示している。また、震央距離差が10 km以内のデータはテストデータの56%を占め、20 km以内では83%を占めた。これらの結果は、現在のところモデルの推論能力が中程度であることを示している。ノイズの多いデータを除去し、学習データを増やすことで精度が向上すると期待される。今後の課題は、モデルが震央を特定できる理由を調査し、震央位置の不確実性を定量化する方法を開発して信頼性を高めることである。