[S21P-06] Detecting and locating tectonic tremors using deep learning: Application to Hi-net stations in the Nankai subduction zone
はじめに
テクトニック微動(以下,微動)の検出法としては,エンベロープ相関法(Obara, 2002)が一般的である.しかし,この方法には通常の地震やノイズを微動と誤検出する欠点があり,判別精度向上のためには追加の処理が必要とされる.深層学習の一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は,周波数成分や継続時間などの信号特徴に基づき,ノイズ,微動,地震を高精度で区別できるため,この問題を解決可能である.さらに,CNNモデルはハイブリッドカタログ(Maeda and Obara, 2009)と比較して,より多くの微動を検出することができる(陣出・他, 2023 SSJ).CNNによって新たに検出された微動の大部分は,従来手法では微動の検出能力が低い微動活動が活発な時期に発生し,従来手法の微動の震央特定に限界があることを示唆する.本研究では,深層学習を用いた新たな微動の震央決定手法を開発し,CNNで検出された微動に対して適用した結果について報告する.
手法
本研究では微動の検出と震央決定にCNNとニューラルネットワーク回帰モデルをそれぞれ使用する.CNNは1分間のスペクトログラムを処理し,観測点で記録されたイベントがノイズ,微動,地震である確率を出力する.回帰モデルは,CNNから出力された各観測点の確率(ノイズ,微動,地震)を用いて,微動の位置情報を出力する.回帰モデルの学習では,ハイブリッド法による微動位置(緯度経度を平面直交座標系に変換したもの)を正解値とし,微動発生時の各観測点におけるCNNの確率出力を学習データとした.この手法では,同じ場所で微動が発生した場合,観測点における微動確率の空間分布が同一であることを仮定している.
微動活動が活発な場合,多数の観測点において明瞭な微動波形が観測され,微動確率が1に飽和し震央決定精度が低下する可能性がある.この問題に対処するため,本研究では確率分布だけでなく,微動の振幅分布も取り入れたモデルも作成し比較を行った.
結果と議論
南海沈み込み帯の四国地方にあるHi-net観測点50点を用いて回帰モデルの学習を行った.2017年に発生した5096回の微動のデータを,それぞれ70%,15%,15%の割合で訓練セット,検証セット,テストセットにランダムに分割してデータセットを作成した.
確率分布のみ,振幅(時間長1分のRMS振幅)分布のみ,確率分布と振幅分布の両方を入力するモデルをそれぞれ作成した.エポック数を200とし,検証セットによる損失(損失関数は平均絶対誤差(MAE))が最小のモデルを選択した.
テストセットを用いて回帰モデルの予測とハイブリッド法による微動の震央位置の比較を行った結果,確率のみ,振幅のみ,確率と振幅両方の各条件における平均誤差はそれぞれ8.97km,8.81km,8.08km,誤差の標準偏差はそれぞれ6.54km,7.17km,6.50kmであり,確率と振幅の両方を用いたモデルが最も良い性能を示した.確率のみを使用したモデルでは,微動確率が飽和した観測点が多いイベントでは誤差が大きくなる傾向があったのに対し,振幅を使用したモデルでは誤差の増加が抑制できていることが確認できた.最良モデルである振幅と確率の両方を使用したモデルでは,最大誤差が57.3km,最小誤差が0.30kmであり,誤差が5㎞未満,10㎞未満,20㎞未満のイベントの割合は,それぞれ37.6%,73.6%,93.9%であった.訓練データ数が少ない地域で発生した微動は誤差が大きくなる傾向があり,データセットの追加により精度改善が期待できる.
このモデルを2012年の5月から6月にかけて四国西・中部で発生したETSイベントに適用した結果,ハイブリッドカタログで見られる微動の沈み込むプレートの走向方向の移動とクラスター状の震央分布が再現され,ハイブリッドカタログの約2.6倍の微動の震央が決定可能であった.本手法における処理時間は,確率の出力に1イベントあたり1.23秒,震央の決定に0.03秒である.実行時間は計算機の性能に依存するが,本手法では波形の相関処理やグリッドサーチを行わないため,従来手法よりも高速な震央決定が可能である.
本発表では,追加データを用いた学習結果についても議論する.
謝辞
本研究では,Hi-netで記録された波形データ,ハイブリッド法(Maeda and Obara, 2009),ハイブリッド・クラスタリング法(Obara et al., 2010)によって作成された微動カタログを使用しました.記して感謝いたします.
テクトニック微動(以下,微動)の検出法としては,エンベロープ相関法(Obara, 2002)が一般的である.しかし,この方法には通常の地震やノイズを微動と誤検出する欠点があり,判別精度向上のためには追加の処理が必要とされる.深層学習の一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は,周波数成分や継続時間などの信号特徴に基づき,ノイズ,微動,地震を高精度で区別できるため,この問題を解決可能である.さらに,CNNモデルはハイブリッドカタログ(Maeda and Obara, 2009)と比較して,より多くの微動を検出することができる(陣出・他, 2023 SSJ).CNNによって新たに検出された微動の大部分は,従来手法では微動の検出能力が低い微動活動が活発な時期に発生し,従来手法の微動の震央特定に限界があることを示唆する.本研究では,深層学習を用いた新たな微動の震央決定手法を開発し,CNNで検出された微動に対して適用した結果について報告する.
手法
本研究では微動の検出と震央決定にCNNとニューラルネットワーク回帰モデルをそれぞれ使用する.CNNは1分間のスペクトログラムを処理し,観測点で記録されたイベントがノイズ,微動,地震である確率を出力する.回帰モデルは,CNNから出力された各観測点の確率(ノイズ,微動,地震)を用いて,微動の位置情報を出力する.回帰モデルの学習では,ハイブリッド法による微動位置(緯度経度を平面直交座標系に変換したもの)を正解値とし,微動発生時の各観測点におけるCNNの確率出力を学習データとした.この手法では,同じ場所で微動が発生した場合,観測点における微動確率の空間分布が同一であることを仮定している.
微動活動が活発な場合,多数の観測点において明瞭な微動波形が観測され,微動確率が1に飽和し震央決定精度が低下する可能性がある.この問題に対処するため,本研究では確率分布だけでなく,微動の振幅分布も取り入れたモデルも作成し比較を行った.
結果と議論
南海沈み込み帯の四国地方にあるHi-net観測点50点を用いて回帰モデルの学習を行った.2017年に発生した5096回の微動のデータを,それぞれ70%,15%,15%の割合で訓練セット,検証セット,テストセットにランダムに分割してデータセットを作成した.
確率分布のみ,振幅(時間長1分のRMS振幅)分布のみ,確率分布と振幅分布の両方を入力するモデルをそれぞれ作成した.エポック数を200とし,検証セットによる損失(損失関数は平均絶対誤差(MAE))が最小のモデルを選択した.
テストセットを用いて回帰モデルの予測とハイブリッド法による微動の震央位置の比較を行った結果,確率のみ,振幅のみ,確率と振幅両方の各条件における平均誤差はそれぞれ8.97km,8.81km,8.08km,誤差の標準偏差はそれぞれ6.54km,7.17km,6.50kmであり,確率と振幅の両方を用いたモデルが最も良い性能を示した.確率のみを使用したモデルでは,微動確率が飽和した観測点が多いイベントでは誤差が大きくなる傾向があったのに対し,振幅を使用したモデルでは誤差の増加が抑制できていることが確認できた.最良モデルである振幅と確率の両方を使用したモデルでは,最大誤差が57.3km,最小誤差が0.30kmであり,誤差が5㎞未満,10㎞未満,20㎞未満のイベントの割合は,それぞれ37.6%,73.6%,93.9%であった.訓練データ数が少ない地域で発生した微動は誤差が大きくなる傾向があり,データセットの追加により精度改善が期待できる.
このモデルを2012年の5月から6月にかけて四国西・中部で発生したETSイベントに適用した結果,ハイブリッドカタログで見られる微動の沈み込むプレートの走向方向の移動とクラスター状の震央分布が再現され,ハイブリッドカタログの約2.6倍の微動の震央が決定可能であった.本手法における処理時間は,確率の出力に1イベントあたり1.23秒,震央の決定に0.03秒である.実行時間は計算機の性能に依存するが,本手法では波形の相関処理やグリッドサーチを行わないため,従来手法よりも高速な震央決定が可能である.
本発表では,追加データを用いた学習結果についても議論する.
謝辞
本研究では,Hi-netで記録された波形データ,ハイブリッド法(Maeda and Obara, 2009),ハイブリッド・クラスタリング法(Obara et al., 2010)によって作成された微動カタログを使用しました.記して感謝いたします.