日本地震学会2024年度秋季大会

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特別セッション » S22. 令和6年能登半島地震

[S22] PM-1

2024年10月22日(火) 13:30 〜 15:00 A会場 (4階国際会議室)

座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、小林 広明(小堀鐸二研究所)

13:45 〜 14:00

[S22-08] 令和6年能登半島地震の強震記録と地殻変動を再現するための特性化震源モデル

*金山 聖1、永野 正行1 (1. 東京理科大学)

令和6年1月1日16時10分頃(気象庁),石川県能登地方を震源としてMj5.9の地震(以降,前震)とMj7.6の地震(以降,本震)が発生し,羽咋郡志賀町香能や輪島市門前町走出で震度7が観測された。この地震では大規模な地殻変動が確認されており,能登半島の北西岸で3mから4m,北岸で約2mの隆起が生じていたことが地震後の現地地査で明らかになっている。筆者らも実際に門前町の海岸に出向き,隆起後の海岸の様子を確認した。地震の規模から考えると,工学的に重要性の高い地表地震断層(以降,地表断層)が生じたものと推察されるが,若山町で見られた地表変状を除けば震源断層の表出位置は全て海域であり,地表断層に伴う建物被害は報告されていない。

 前震と本震については,強震波形をターゲットとした震源インバージョン解析によって,断層の破壊過程が推定されている(例えば,浅野・岩田[JPGU, 2024],引間[JPGU, 2024],野津・長坂[JPGU, 2024])。本震については,震源インバージョン解析に基づく不均質すべり分布を参照した,アスペリティのみからなる特性化震源モデルが提案されている(松元・他[JPGU, 2024])。しかし,例えばK-NET大谷では前震によって生じる約30cm程度の永久変位と合わせて2ステップ状の変位波形を呈するなど,本震の一部地域では前震の影響を無視できないため,震源周辺の地震動評価を目的とする場合には,前震を考慮したモデルが必要であると考える。

 数100km規模で地表断層が確認された2023年トルコ・シリア地震(Mw7.8, Mw7.5)に対しては,地震発生層だけでなく地震発生層以浅についてもモデル化した特性化震源モデルに関する検討がされている(例えば,田中・久田[JEES, 2023],貴堂・他[AIJ, 2024],金山・他[AIJ, 2024])。震源断層上及びその周辺で地震動の観測記録が得られており,地表断層が生じた可能性が高い能登半島地震に対し,震源断層のモデル化を行い,永久変位を含む震源近傍の地震動を説明可能なモデルを蓄積することは,強震動予測の高度化に向けて重要である。そこで本研究では,金山・他[AIJ, 2024]の手法と同様に,地震発生層以浅をLMGA,地震発生層内をSMGAおよび背景領域として震源断層を特性化し,断層周辺の観測記録と地殻変動分布の再現を試みる。

 能登半島地震の震源断層は,前震と本震に分けてモデル化した。前震の震源断層の設定に際し,震源周辺の変位波形を書いたところ,K-NET大谷以外の観測点では変位波形に大きな影響が見られなかったため,K-NET大谷での隆起が説明できることを重視した。また,前震の震源断層の面積は地震モーメントと断層面積のスケーリングから概ね60km2程度と本震に比して小さく,断層すべりの不均質性が周辺の観測点に与える影響は小さいと考え,簡単に均質すべりでモデル化した。断層の走向角や傾斜角は波形の再現性を見ながら調整した。本震の震源断層は,国土地理院による3枚の矩形断層を参考にしながら設定し,SMGAやLMGAの位置は,既往の不均質すべり分布からフォワードモデリングで試行錯誤的に設定した。

 観測点での地震動の計算には,永久変位と地殻変動分布を再現するため,理論的手法を採用する。本研究では,各観測点の直下に水平成層地盤構造を仮定し,薄層法により計算した。水平成層地盤構造は,地震本部による全国一次地下構造モデルに加え,K-NETとKiK-net観測点については各観測点の土質データも参照した。すべり速度時間関数は,地震発生層には中村・宮武の近似式を用い,地震発生層以浅には2等辺3角形型の関数を与えた。

 シミュレーションの結果,振幅や位相に課題が残る観測点はあるものの,多くの観測点で永久変位や速度パルスの特徴を良好に再現し,特にK-NET大谷の前震と本震で段階的に生じる永久変位を再現することができた。また,構築した震源断層モデルを用いて算出した能登半島陸域における永久変位分布は,国土地理院による地殻変動分布と調和的な結果を示しており,変位量の大きかった半島北西端と北端の傾向を再現することができている。今後は,特性化震源モデルを調整し,震源断層周辺で観測された地震動に関する分析と,3次元差分法による地震動シミュレーションを行う予定である。

謝辞
 防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,KiK-net),気象庁の地震観測データ,国土地理院の震源断層モデル(2024年1月30日時点)のデータを使わせていただきました。記して謝意を表します。