10:15 〜 10:30
[S22-24] GNSS統合解析に基づく2024年能登半島地震(M7.6)後の地殻変動
はじめに
能登半島において,2020年11月末に始まった群発地震活動は,顕著な地殻変動を伴うものであった(Nishimura et al., 2023).能登半島には,2024年8月現在,国土地理院のGEONETに加え,ソフトバンク株式会社による独自基準点,京都大学と金沢大学による臨時観測点を含めると45観測点以上のGNSS観測点が設置されており,充実した地殻変動の観測体制が整っている.2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)では,これらの観測点で水平方向に最大2.2m,上下方向には最大1.9mの隆起が観測された.地震後も余効変動と考えられる地殻変動が,地震後徐々に減速しながらも継続している.本発表では,能登半島のGNSS観測点で観測された能登半島地震後の地殻変動について報告する.
データ解析手法及び観測された地殻変動
本研究では,各機関から提供されたRINEXデータを用いて,GipsyX Ver 1.4(Bertiger et al., 2020)の精密単独測位法によりITRF2014準拠の日座標値を計算し,2020年11月以前の長期トレンド成分を除去して,非定常地殻変動を抽出した.GEONET観測点については,2020年11月以前から長期にわたる観測が行われているため,一次トレンド,年周,半年周成分や対数関数と指数関数を組み合わせた東北地方太平洋沖地震の余効変動成分を外挿して長期トレンド補正を行ったが,それ以外の観測点では2020年12月以前の観測データがほとんどないため,GEONET点での2017年12月から2020年11月までの平均速度を空間的に内挿して各観測点での速度を推定し,この速度をトレンド成分として除去した.地震後6ヶ月間の非定常地殻変動は,能登半島や震源域の南東側にあたる富山県や新潟県では北西向きで最大4cmに程度に達する.また,上下変動では能登半島では全域が沈降し,最大沈降量は7cmに達する.また,水平変位の距離減衰が小さく,能登半島と富山県や新潟県の日本海側の観測点の水平変位量は概ね等しい.非定常地殻変動は現在も継続しており,地震6ヶ月後の42日間でも最大数mmの変動が確認できる(Fig. 1a),その変動速度は時間とともに低下している.また,能登半島北東部の2020年以降に非定常地殻変動が観測されていた地域において,周辺と異なるような特筆すべき地殻変動は観測されていない.なお,2024年6月3日に発生したM6.0の地震に伴う地震時変動も地震の震央に近い観測点で観測されており,最大2cmの隆起と水平変動が観測された.
地震後の非定常地殻変動モデル
M7.6地震後の非定常地殻変動を,粘弾性緩和を仮定してモデル化を行なった.地震後3ヶ月間の非定常地殻変動時系列を,対数関数でフィティング(例えば,Hashimoto et al., 2008)して3ヶ月間の変位量を算出し,半無限Burgers粘弾性体の上に弾性層があるような単純な一次元構造を仮定(Pollitz, 1997)して,弾性層の厚さと粘弾性層の粘性率をグリッドサーチで推定した.その結果,弾性層厚さは30km,Kelvin要素の粘性率は5.5×1017Pa sと推定された.なお,この計算ではMaxwell要素の粘性率はKelvin要素の粘性率の20倍(すなわち1.1×1019Pa s)と仮定している.このモデルは地震後6ヶ月後の地殻変動場も概ね説明する(Fig. 1)が,計算値の方がやや小さく,余効すべりの影響もあると考えられる.一方,間隙弾性反発による余効変動は,地震時すべりが大きかった能登半島北西部で大きくなることが予想されるが,半無限弾性体でポアソン比を変えて計算した(例えば,Jonsson et al. 2003)変位の水平変動パターンは,観測変位と異なっており,M7.6地震後の非定常地殻変動への影響は小さいと考えられる.
謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.国土地理院の電子基準点RINEXデータ,気象庁一元化震源データを使用しました.京都大学及び金沢大学のGNSS観測点の設置にあたり,珠洲市教育委員会,珠洲市企画財政課,珠洲市産業振興課,珠洲市総務課,能登町教育委員会及び奥能登国際芸術祭実行委員会にお世話になりました.本研究はJSPS科研費 JP22K19949, JP23K17482,京都大学防災研究所共同研究2023GC-7の助成,及び,文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第三次)」の支援を受けました.ここに記して感謝いたします.
能登半島において,2020年11月末に始まった群発地震活動は,顕著な地殻変動を伴うものであった(Nishimura et al., 2023).能登半島には,2024年8月現在,国土地理院のGEONETに加え,ソフトバンク株式会社による独自基準点,京都大学と金沢大学による臨時観測点を含めると45観測点以上のGNSS観測点が設置されており,充実した地殻変動の観測体制が整っている.2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)では,これらの観測点で水平方向に最大2.2m,上下方向には最大1.9mの隆起が観測された.地震後も余効変動と考えられる地殻変動が,地震後徐々に減速しながらも継続している.本発表では,能登半島のGNSS観測点で観測された能登半島地震後の地殻変動について報告する.
データ解析手法及び観測された地殻変動
本研究では,各機関から提供されたRINEXデータを用いて,GipsyX Ver 1.4(Bertiger et al., 2020)の精密単独測位法によりITRF2014準拠の日座標値を計算し,2020年11月以前の長期トレンド成分を除去して,非定常地殻変動を抽出した.GEONET観測点については,2020年11月以前から長期にわたる観測が行われているため,一次トレンド,年周,半年周成分や対数関数と指数関数を組み合わせた東北地方太平洋沖地震の余効変動成分を外挿して長期トレンド補正を行ったが,それ以外の観測点では2020年12月以前の観測データがほとんどないため,GEONET点での2017年12月から2020年11月までの平均速度を空間的に内挿して各観測点での速度を推定し,この速度をトレンド成分として除去した.地震後6ヶ月間の非定常地殻変動は,能登半島や震源域の南東側にあたる富山県や新潟県では北西向きで最大4cmに程度に達する.また,上下変動では能登半島では全域が沈降し,最大沈降量は7cmに達する.また,水平変位の距離減衰が小さく,能登半島と富山県や新潟県の日本海側の観測点の水平変位量は概ね等しい.非定常地殻変動は現在も継続しており,地震6ヶ月後の42日間でも最大数mmの変動が確認できる(Fig. 1a),その変動速度は時間とともに低下している.また,能登半島北東部の2020年以降に非定常地殻変動が観測されていた地域において,周辺と異なるような特筆すべき地殻変動は観測されていない.なお,2024年6月3日に発生したM6.0の地震に伴う地震時変動も地震の震央に近い観測点で観測されており,最大2cmの隆起と水平変動が観測された.
地震後の非定常地殻変動モデル
M7.6地震後の非定常地殻変動を,粘弾性緩和を仮定してモデル化を行なった.地震後3ヶ月間の非定常地殻変動時系列を,対数関数でフィティング(例えば,Hashimoto et al., 2008)して3ヶ月間の変位量を算出し,半無限Burgers粘弾性体の上に弾性層があるような単純な一次元構造を仮定(Pollitz, 1997)して,弾性層の厚さと粘弾性層の粘性率をグリッドサーチで推定した.その結果,弾性層厚さは30km,Kelvin要素の粘性率は5.5×1017Pa sと推定された.なお,この計算ではMaxwell要素の粘性率はKelvin要素の粘性率の20倍(すなわち1.1×1019Pa s)と仮定している.このモデルは地震後6ヶ月後の地殻変動場も概ね説明する(Fig. 1)が,計算値の方がやや小さく,余効すべりの影響もあると考えられる.一方,間隙弾性反発による余効変動は,地震時すべりが大きかった能登半島北西部で大きくなることが予想されるが,半無限弾性体でポアソン比を変えて計算した(例えば,Jonsson et al. 2003)変位の水平変動パターンは,観測変位と異なっており,M7.6地震後の非定常地殻変動への影響は小さいと考えられる.
謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.国土地理院の電子基準点RINEXデータ,気象庁一元化震源データを使用しました.京都大学及び金沢大学のGNSS観測点の設置にあたり,珠洲市教育委員会,珠洲市企画財政課,珠洲市産業振興課,珠洲市総務課,能登町教育委員会及び奥能登国際芸術祭実行委員会にお世話になりました.本研究はJSPS科研費 JP22K19949, JP23K17482,京都大学防災研究所共同研究2023GC-7の助成,及び,文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第三次)」の支援を受けました.ここに記して感謝いたします.