[S23P-01] Attenuation Characteristics of Bedrock Motions due to the 2024 Hyuganada Earthquake (M7.1)
【1】はじめに
2024年8月8日日向灘の地震(M7.1)では九州・四国・中国地方において強震動が観測された.これらの観測記録は南海トラフの巨大地震による強震動特性を考える上で貴重な情報となる.ここでは,この地震によるK-NET, KiK-netの観測記録[NIED(2024)]をもとに,西南日本における地震動距離減衰特性を検討した.
【2】相対サイトファクターの評価とそれを用いた観測地震動から基盤地震動への変換
観測地震動をもとに距離減衰特性を詳細に把握するには観測地点毎の揺れ易さの違いが障害となる.そのため,予め九州・四国・中国地方におけるK-NETとKiK-netの観測地点(741測点)に対して隣接観測点ネットワークによる広域相対サイトファクター評価法[池浦(2020)]を適用し,基準点に対する相対サイトファクター(RSF)としてS波区間のフーリエ振幅比を評価した.RSFの基準点としてはKiK-net伊方の地中観測点(GL-153m)を採用した.この観測点は,Vp=5.46km/s, Vs=2.78km/sの中生代の変成岩体の内部であり[NIED(2024a)],地震基盤相当の観測点と考えることができる.そこで,観測地震動のS波区間のフーリエ振幅(OBS)を上記のRSFで除すことにより,各観測地点固有のサイトファクターをすべて基準点の地震基盤相当のサイトファクターに変換した地震動(BRM)を求め,その距離減衰特性を詳しく観察した.
【3】距離減衰特性の分析
距離減衰特性の検討では,まず,得られた全地点のBRMをもとに,lnBRM( f )に対して周波数帯域毎にln[ r ](r:震源距離)の多項式を当てはめ,平均的な距離減衰特性μ( r )とばらつきσを評価した.その際に,多項式の次数は最大5次を上限として最小AICの条件で選択した.なお,帯域分割は0.3 Hz~30 Hzで対数等間隔の8分割とした.また,各地点におけるlnBRMの残差につき,Zscore = {lnBRM( f )−μ(r)}/σを求め,その空間分布を観察した.
【4】結果
BRMの距離減衰分布はいずれの帯域でもOBSのそれに比べて分布がまとまり,距離減衰の特徴が明瞭となった.平均距離減衰曲線のばらつきは自然対数の標準偏差でσ = 0.32~0.65であり,概ね周波数とともに増大する結果であった. 0.7 Hz帯域のBRMの距離減衰分布(図1)を観察すると,近距離(r < 100 km)と中間距離( r= 150 - 200 km)においてそれぞれ分布が2段に分離する特徴が認められる.Zscoreの空間分布によれば,これらの分離は近距離側が九州の前弧側における振幅差,および中間距離が九州北部と四国南西部の振幅差を反映している.F-netのメカニズム解[NIED(2024b)]に基づく水平動のラディエーションパターン係数Rθφ=√(SH2+SV2)の分布(図3)は四国への方向(N030degE)に対して非常に小さい値となっており,九州と四国の振幅差がRθφの方位特性で生じている可能性が考えられた.
一方,7 Hz帯域のBRMの距離減衰分布(図2)ではr = 100 km付近から遠方で距離減衰の勾配が急になる特徴と,r = 200~300 kmで分布が2段に分離する特徴が見られる.その空間分布(図4)では,前者が火山フロント背弧側の領域の観測地点の特徴,後者が遠方における前弧側と背弧側の振幅差を反映している.これに関連して,九州では大規模火山の周辺に局地的にLow-Q領域があるが,それらとBRMとの関係は明らかでない.今後の課題である.
【5】まとめ
2024年8月8日日向灘の地震(M7.1)による基盤地震動の距離減衰特性を詳しく検討した.同一距離における振幅差(ばらつき)の要因として,低周波数領域では発震機構による放射係数Rθφの異方性,高周波数領域では火山フロントの前後の減衰性の違いを指摘した.
なお,低周波数領域で四国の揺れが非常に小さかった点については,沈み込み帯の構造的な要因も考慮する必要がある.また,地震規模のわりに観測加速度が小さかった印象があるが,沈み込みと反対の破壊進行方向の海域では大きかった可能性が高い.海底地震計データの分析が必要である.
【謝辞】防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netのデータおよびF-netの震源メカニズム解を使用させていただきました.記して感謝します.
【参考文献】池浦(2020)地震工学会論文集,NIED(2024a)強震観測網(K-NET, KiK-net),NIED(2024b)広帯域地震観測網(F-net)
2024年8月8日日向灘の地震(M7.1)では九州・四国・中国地方において強震動が観測された.これらの観測記録は南海トラフの巨大地震による強震動特性を考える上で貴重な情報となる.ここでは,この地震によるK-NET, KiK-netの観測記録[NIED(2024)]をもとに,西南日本における地震動距離減衰特性を検討した.
【2】相対サイトファクターの評価とそれを用いた観測地震動から基盤地震動への変換
観測地震動をもとに距離減衰特性を詳細に把握するには観測地点毎の揺れ易さの違いが障害となる.そのため,予め九州・四国・中国地方におけるK-NETとKiK-netの観測地点(741測点)に対して隣接観測点ネットワークによる広域相対サイトファクター評価法[池浦(2020)]を適用し,基準点に対する相対サイトファクター(RSF)としてS波区間のフーリエ振幅比を評価した.RSFの基準点としてはKiK-net伊方の地中観測点(GL-153m)を採用した.この観測点は,Vp=5.46km/s, Vs=2.78km/sの中生代の変成岩体の内部であり[NIED(2024a)],地震基盤相当の観測点と考えることができる.そこで,観測地震動のS波区間のフーリエ振幅(OBS)を上記のRSFで除すことにより,各観測地点固有のサイトファクターをすべて基準点の地震基盤相当のサイトファクターに変換した地震動(BRM)を求め,その距離減衰特性を詳しく観察した.
【3】距離減衰特性の分析
距離減衰特性の検討では,まず,得られた全地点のBRMをもとに,lnBRM( f )に対して周波数帯域毎にln[ r ](r:震源距離)の多項式を当てはめ,平均的な距離減衰特性μ( r )とばらつきσを評価した.その際に,多項式の次数は最大5次を上限として最小AICの条件で選択した.なお,帯域分割は0.3 Hz~30 Hzで対数等間隔の8分割とした.また,各地点におけるlnBRMの残差につき,Zscore = {lnBRM( f )−μ(r)}/σを求め,その空間分布を観察した.
【4】結果
BRMの距離減衰分布はいずれの帯域でもOBSのそれに比べて分布がまとまり,距離減衰の特徴が明瞭となった.平均距離減衰曲線のばらつきは自然対数の標準偏差でσ = 0.32~0.65であり,概ね周波数とともに増大する結果であった. 0.7 Hz帯域のBRMの距離減衰分布(図1)を観察すると,近距離(r < 100 km)と中間距離( r= 150 - 200 km)においてそれぞれ分布が2段に分離する特徴が認められる.Zscoreの空間分布によれば,これらの分離は近距離側が九州の前弧側における振幅差,および中間距離が九州北部と四国南西部の振幅差を反映している.F-netのメカニズム解[NIED(2024b)]に基づく水平動のラディエーションパターン係数Rθφ=√(SH2+SV2)の分布(図3)は四国への方向(N030degE)に対して非常に小さい値となっており,九州と四国の振幅差がRθφの方位特性で生じている可能性が考えられた.
一方,7 Hz帯域のBRMの距離減衰分布(図2)ではr = 100 km付近から遠方で距離減衰の勾配が急になる特徴と,r = 200~300 kmで分布が2段に分離する特徴が見られる.その空間分布(図4)では,前者が火山フロント背弧側の領域の観測地点の特徴,後者が遠方における前弧側と背弧側の振幅差を反映している.これに関連して,九州では大規模火山の周辺に局地的にLow-Q領域があるが,それらとBRMとの関係は明らかでない.今後の課題である.
【5】まとめ
2024年8月8日日向灘の地震(M7.1)による基盤地震動の距離減衰特性を詳しく検討した.同一距離における振幅差(ばらつき)の要因として,低周波数領域では発震機構による放射係数Rθφの異方性,高周波数領域では火山フロントの前後の減衰性の違いを指摘した.
なお,低周波数領域で四国の揺れが非常に小さかった点については,沈み込み帯の構造的な要因も考慮する必要がある.また,地震規模のわりに観測加速度が小さかった印象があるが,沈み込みと反対の破壊進行方向の海域では大きかった可能性が高い.海底地震計データの分析が必要である.
【謝辞】防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netのデータおよびF-netの震源メカニズム解を使用させていただきました.記して感謝します.
【参考文献】池浦(2020)地震工学会論文集,NIED(2024a)強震観測網(K-NET, KiK-net),NIED(2024b)広帯域地震観測網(F-net)