[S23P-06] Ground tilt change before and after the Hyuga-nada earthquake on August 8, 2024
2024年8月8日16時43分頃に日向灘を震源とするMJ7.1の地震がフィリピン海スラブ上面で発生した.気象庁は19時15分に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表し,政府は同月15日の17時まで「特別な注意の呼びかけ」を行った.このような状況では,南海トラフ沿いのプレート境界における地殻活動の状況を,測地学的,地震学的に出来うるだけ多項目でモニタリングすることが重要である.防災科学技術研究所(以下、防災科研)では,陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)等のデータを用いてさまざまな地殻活動のモニタリングを実施している。このうち広域かつ稠密に展開されているHi-netに併設されている高感度加速度計による傾斜変動データは,南海トラフ沿いのプレート境界で発生する短期的スロースリップイベント(SSE)の解析に使用される[Obara et al. 2004;Hirose and Obara, 2005]等,地殻活動のモニタリングに有用なデータの一つである.本研究では,日向灘の地震時のHi-net傾斜変動データの調査から,地震前後の地殻活動モニタリングにおける本データの利用可能性について検証する.解析には,南海トラフの巨大地震の想定震源域周辺の約200のHi-net観測点での傾斜変動データを利用した.傾斜変動データに含まれる潮汐応答成分を補正するため,日向灘の地震発生前の2024年5月10日~8月7日の1時間サンプルのデータからBAYTAP-G[Tamura et al. 1991]を用いて各観測点および成分の潮汐応答成分の振幅および位相を推定した.得られた振幅および位相から日向灘の地震後を含めた傾斜変動における潮汐応答成分を推定し,日向灘の地震前後のデータから潮汐応答成分を補正した.日向灘の地震時には,震源近傍のHi-net日南(NCNH)で15.1μradian(2成分合成)のステップ変化が見られるなど,九州地方の4観測点で1μradianを超える大きなステップ変化が見られた.また,ステップ変化後には継続時間が10日またはそれ以上のゆっくりとした変化が見られた.このゆっくりとした変化の大きさや継続時間は,直前のステップ変化の大きさと相関は見られない.強震動時のこの様な変化は地殻活動によるものではなく,振動により高感度加速度計がボアホール内で動いた可能性[佐藤・他,1980]や振り子の中立点のずれ[上田・他,2010]などが原因として考えられる.特に,ステップ変化後のゆっくりとした変化は,地震直後の地殻活動を捉える上で,大きな障害となる.一方で,九州地方以外ではステップ変化等は見られず,地震前後で観測能力に大きな違いは生じなかったと考えられる.実際に,日向灘の地震直後には紀伊半島北部から愛知県西部の観測点で短期的SSEによるものと考えられる約0.1μradianの傾斜変動が観測され,四国中部でも微動活動の活発に伴う傾斜変動が捉えられている.従って,大地震発生直後の傾斜変動データの利用にあたっては,振動によるステップ変化およびその後のゆっくりとした変化の発生を迅速に把握し,利用可否を判断することが重要である.