[S23P-14] On the probability of an M7-class earthquake in Hyuganada region to trigger an M8 or larger earthquake
2019年5月から運用されている南海トラフ地震臨時情報(以下、「臨時情報」)発表の仕組みにおいては、日向灘地域を含む南海トラフ地震想定震源域内でMw7.0以上8.0未満(以下、「M7クラス」)の地震が発生した場合に臨時情報(巨大地震注意)が発表されることになっている。人は一般に、種々の認知バイアスはあれど、ある事象が起こるリスク(確率と起こった場合の事の重大さ)と何らかの対応行動を取るコストを無意識的・意識的に比較してその事象に対する態度を決め、行動するため、臨時情報が発表された場合の巨大地震発生の確率に関連して社会に知らされる数字は、個人や組織の対応行動に大きな影響を与えうる。本研究では、2024年8月8日に日向灘で発生したMw7.0の地震により、はじめて臨時情報(巨大地震注意)が発表されたことを受け、その際に目安として示されていた確率の妥当性や不確実性について検討した。
国は、M7クラスの地震が発生してから一週間以内にM8クラス以上の巨大地震(以下、「M8+地震」)が発生する確率について、「数百回に1回程度」(根拠となる数字から確率を計算すると、0.4%)という目安を示していた。この目安については、Fukushima et al. (2023, Scientific Reports) の追試的な解析により、概ね妥当であったことが示されている。しかし、目安となる数字は世界の事例から統計的に算出されたもので、これが日向灘地域における数字として妥当かどうかについては明確な答えがあるわけではない。地震の起こり方には、普遍的な法則があるとともに、場所に固有な性質があるからである(例えば、大きな地震は必ず余震を伴うが、余震活動が大変活発な場合も、余震活動がすぐ収束する場合もある)。上述の目安として示されている確率は、あくまで、世界で起こる地震の連鎖性に関する特徴が日向灘地域にもある程度は成り立っているとの前提での話であるということに留意する必要がある。
日向灘地域での確率を統計的に評価するには、日向灘地域で過去に起きた地震の発生履歴を用いる必要がある。日向灘地域においては、17世紀以降現在までにM7.0以上の地震が8回起こり、いずれも後続する巨大地震が伴わなかったことが知られている(1662年の地震はM8クラスだった可能性が最近指摘されたが、ここでは簡単のためそれは考慮しない)。「8回中0回」という事実からM7クラスの地震に続いてM8+地震が一週間以内に近隣で発生する確率の95%信頼区間を計算すると、0%〜37%となる。つまり、純粋に統計理論に頼ると、標本数が少ないために、大きな不確実性は不可避である。
一方、国が示していた目安となる確率の根拠となった過去のM7クラスとM8+地震の連発事例は、チリ沈み込み帯など、いずれもプレート間の固着が強く、M7〜M8クラスの地震が多く発生する地域で発生していた。日向灘地域は、プレート間固着は比較的弱い(つまり、定常的にすべっている領域が相対的に大きい)し、M7クラスの地震は多いがM8クラスの地震はほとんど知られていないということから、過去の事例があった地域と比べ、M7クラスとM8+地震の連発は起こりにくいという仮説が提示できる。今後、確率評価の不確実性を減らしていくためには、プレート間固着解析の解像度向上、地震発生シミュレーションの活用などを進め、M7クラスとM8+地震の連発の起こりにくさを定量化するような試みが必要であろう。
国は、M7クラスの地震が発生してから一週間以内にM8クラス以上の巨大地震(以下、「M8+地震」)が発生する確率について、「数百回に1回程度」(根拠となる数字から確率を計算すると、0.4%)という目安を示していた。この目安については、Fukushima et al. (2023, Scientific Reports) の追試的な解析により、概ね妥当であったことが示されている。しかし、目安となる数字は世界の事例から統計的に算出されたもので、これが日向灘地域における数字として妥当かどうかについては明確な答えがあるわけではない。地震の起こり方には、普遍的な法則があるとともに、場所に固有な性質があるからである(例えば、大きな地震は必ず余震を伴うが、余震活動が大変活発な場合も、余震活動がすぐ収束する場合もある)。上述の目安として示されている確率は、あくまで、世界で起こる地震の連鎖性に関する特徴が日向灘地域にもある程度は成り立っているとの前提での話であるということに留意する必要がある。
日向灘地域での確率を統計的に評価するには、日向灘地域で過去に起きた地震の発生履歴を用いる必要がある。日向灘地域においては、17世紀以降現在までにM7.0以上の地震が8回起こり、いずれも後続する巨大地震が伴わなかったことが知られている(1662年の地震はM8クラスだった可能性が最近指摘されたが、ここでは簡単のためそれは考慮しない)。「8回中0回」という事実からM7クラスの地震に続いてM8+地震が一週間以内に近隣で発生する確率の95%信頼区間を計算すると、0%〜37%となる。つまり、純粋に統計理論に頼ると、標本数が少ないために、大きな不確実性は不可避である。
一方、国が示していた目安となる確率の根拠となった過去のM7クラスとM8+地震の連発事例は、チリ沈み込み帯など、いずれもプレート間の固着が強く、M7〜M8クラスの地震が多く発生する地域で発生していた。日向灘地域は、プレート間固着は比較的弱い(つまり、定常的にすべっている領域が相対的に大きい)し、M7クラスの地震は多いがM8クラスの地震はほとんど知られていないということから、過去の事例があった地域と比べ、M7クラスとM8+地震の連発は起こりにくいという仮説が提示できる。今後、確率評価の不確実性を減らしていくためには、プレート間固着解析の解像度向上、地震発生シミュレーションの活用などを進め、M7クラスとM8+地震の連発の起こりにくさを定量化するような試みが必要であろう。