[PA090] 小学生における無気力感メカニズムの探索的検討
自動思考における検討
キーワード:小学生, 無気力感, メカニズム
目 的
小学生・中学生を対象とした調査結果で,日本の子どもは欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告されている(傳田,2004)。こうした抑うつの予防として牧ら(2003,2006,2007,2011)は,中学生の無力感のメカニズムを検討するため,行動と結果が随伴しているかどうかについての認知である随伴性認知(Seligman & Maier,1967),コーピング・エフィカシー(ストレス事態における対処行動への自信)と, Beck(1967)の抑うつスキーマ理論における推論の誤りを参照した思考の偏りといった変数を想定し,パス解析によるモデル検証を行った。その結果,随伴経験の乏しさ→コーピング・エフィカシーの減少→無気力感の経路と,非随伴経験によって教師への偏った思考・友人関係における偏った思考・自己への偏った思考が形成され,この3つの思考の偏りが勉強における偏った思考に影響を与え,自己への偏った思考とともに無気力感へつながるパスが認められた(牧ら,2007)。しかし具体的操作期から形式的操作期への移行時期にもあたり,また行動と結果の随伴性判断がより現実的になる思春期(鎌原・樋口,1987; Weisz & Stipek,1982)の中学生に比べて,その認知発達が具体的操作期にある考えられる小学生の無気力感は,違ったメカニズムで起因している可能性が考えられる。以上のことから本研究では,Beck(1967)の抑うつ認知理論における自動思考に関して,小学生対象の自由記述調査から,その実態を探索的に検討する。
方 法
【調査対象】
大阪府内の公立小学校に通う児童194名(男子=102名,女子=82名,不明10名;4年生=86名,5年生=98名,不明10名)を対象に調査を行った。なお有効回答率は93%であった。
【手続き】
調査は無記名式で実施され,調査先の小学校教師によって教示・配布・回収された。なお調査内容は以下の通りである。
自由記述式調査
「“やる気が出ない”とき,あなたの頭に言葉が浮かびますか。当てはまる数字(注:1=言葉はうかばない,2=言葉がうかぶ)に○をつけてください。2に○をつけた人は,どんな言葉がうかぶのか教えてください。」と教示し,児童に回答させた。
無気力感の測定
小学生用に作成された無力感測定尺度(前原,1998)を併せて実施した。
結 果
児童の回答に基づき,まず「やる気のでないとき」に言葉が浮かばない群(自動思考なし群)・浮かぶと回答した群(自動思考あり群)の人数をそれぞれ算出したところ,105名・65名という結果となった。そこでχ2検定で人数の偏りを検討したところ,自動思考なし群の人数の方が,自動思考あり群よりも有意に人数が多いことが確認された(χ2[1]=9.42,p<.01)。続いて,「浮かぶ」と回答した65名の自由記述データを分類した結果,「倦怠・疲労(めんどうくさい・つかれた等)」「回避・嫌悪(やりたくないなぁ・いやだなぁ等)」「思考の偏り(私ってどうしてこんなにだめなんだろう等)」・「肯定的自動思考(もっとがんばろう等)」の4つの自動思考に分類された。続いてこの4分類と自動思考なし群を独立変数,無気力感測定尺度得点を従属変数とした一要因分散分析を行った結果,「回避・嫌悪」が自動思考なし群よりも,有意に得点が高い結果となった。
考 察
本研究の結果,小学生(4年生・5年生)においては,自動思考が浮かぶ児童よりは浮かばない児童の方が有意に多い結果となった。児童期の子どもの多くは具体的操作期に属していると考えられること,また小学校中学年から思考過程の意識化に伴うモニタリングが行われるようになる(藤村,2008)との指摘があることからも,この時期の子どもたちは抑うつ認知論(Beck,1967)における抑うつスキーマが形成されるだけの経験の認知とそのモニタリングがまだ十分機能していない可能性があると考えられる。
その一方で,自動思考あり群となし群との無気力感の違いを検討したところ,自動思考あり群「回避・嫌悪群」がなし群に比べて有意に得点が高い結果となった。このことから,随伴経験の乏しさや非随伴経験の多さを認知・モニタリングした結果,抑うつスキーマが形成され,否定的自動思考が生起して,無気力感につながっている児童がいる可能性も併せて示唆されたといえる。
※本研究は日本学術振興会の科学研究費・基盤研究(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受けた。
小学生・中学生を対象とした調査結果で,日本の子どもは欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告されている(傳田,2004)。こうした抑うつの予防として牧ら(2003,2006,2007,2011)は,中学生の無力感のメカニズムを検討するため,行動と結果が随伴しているかどうかについての認知である随伴性認知(Seligman & Maier,1967),コーピング・エフィカシー(ストレス事態における対処行動への自信)と, Beck(1967)の抑うつスキーマ理論における推論の誤りを参照した思考の偏りといった変数を想定し,パス解析によるモデル検証を行った。その結果,随伴経験の乏しさ→コーピング・エフィカシーの減少→無気力感の経路と,非随伴経験によって教師への偏った思考・友人関係における偏った思考・自己への偏った思考が形成され,この3つの思考の偏りが勉強における偏った思考に影響を与え,自己への偏った思考とともに無気力感へつながるパスが認められた(牧ら,2007)。しかし具体的操作期から形式的操作期への移行時期にもあたり,また行動と結果の随伴性判断がより現実的になる思春期(鎌原・樋口,1987; Weisz & Stipek,1982)の中学生に比べて,その認知発達が具体的操作期にある考えられる小学生の無気力感は,違ったメカニズムで起因している可能性が考えられる。以上のことから本研究では,Beck(1967)の抑うつ認知理論における自動思考に関して,小学生対象の自由記述調査から,その実態を探索的に検討する。
方 法
【調査対象】
大阪府内の公立小学校に通う児童194名(男子=102名,女子=82名,不明10名;4年生=86名,5年生=98名,不明10名)を対象に調査を行った。なお有効回答率は93%であった。
【手続き】
調査は無記名式で実施され,調査先の小学校教師によって教示・配布・回収された。なお調査内容は以下の通りである。
自由記述式調査
「“やる気が出ない”とき,あなたの頭に言葉が浮かびますか。当てはまる数字(注:1=言葉はうかばない,2=言葉がうかぶ)に○をつけてください。2に○をつけた人は,どんな言葉がうかぶのか教えてください。」と教示し,児童に回答させた。
無気力感の測定
小学生用に作成された無力感測定尺度(前原,1998)を併せて実施した。
結 果
児童の回答に基づき,まず「やる気のでないとき」に言葉が浮かばない群(自動思考なし群)・浮かぶと回答した群(自動思考あり群)の人数をそれぞれ算出したところ,105名・65名という結果となった。そこでχ2検定で人数の偏りを検討したところ,自動思考なし群の人数の方が,自動思考あり群よりも有意に人数が多いことが確認された(χ2[1]=9.42,p<.01)。続いて,「浮かぶ」と回答した65名の自由記述データを分類した結果,「倦怠・疲労(めんどうくさい・つかれた等)」「回避・嫌悪(やりたくないなぁ・いやだなぁ等)」「思考の偏り(私ってどうしてこんなにだめなんだろう等)」・「肯定的自動思考(もっとがんばろう等)」の4つの自動思考に分類された。続いてこの4分類と自動思考なし群を独立変数,無気力感測定尺度得点を従属変数とした一要因分散分析を行った結果,「回避・嫌悪」が自動思考なし群よりも,有意に得点が高い結果となった。
考 察
本研究の結果,小学生(4年生・5年生)においては,自動思考が浮かぶ児童よりは浮かばない児童の方が有意に多い結果となった。児童期の子どもの多くは具体的操作期に属していると考えられること,また小学校中学年から思考過程の意識化に伴うモニタリングが行われるようになる(藤村,2008)との指摘があることからも,この時期の子どもたちは抑うつ認知論(Beck,1967)における抑うつスキーマが形成されるだけの経験の認知とそのモニタリングがまだ十分機能していない可能性があると考えられる。
その一方で,自動思考あり群となし群との無気力感の違いを検討したところ,自動思考あり群「回避・嫌悪群」がなし群に比べて有意に得点が高い結果となった。このことから,随伴経験の乏しさや非随伴経験の多さを認知・モニタリングした結果,抑うつスキーマが形成され,否定的自動思考が生起して,無気力感につながっている児童がいる可能性も併せて示唆されたといえる。
※本研究は日本学術振興会の科学研究費・基盤研究(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受けた。