The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(501)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 501 (5階)

[PA091] 震災による喪失感尺度の作成

岡本英生1, 齊藤誠一2, 則定百合子3, 松木太郎4 (1.奈良女子大学, 2.神戸大学, 3.和歌山大学, 4.神戸大学大学院)

Keywords:震災, ストレス

問題
2011年3月に発生した東日本大震災は,東北地方を中心に甚大な被害をもたらし,被災地で暮らす人々にさまざまな心理的影響を与えている(齊藤他,2013,2014)。その中でも,自分が慣れ親しんだ故郷が大きく様変わりした,あるいは日々の生活に対する安心や社会に対する信頼を失ったといった一見深刻でない喪失感は,長期的に見れば被災地で暮らす人々にネガティブな影響を及ぼす可能性がある。そのような喪失感の実態を把握するとともに,その影響を明らかにしていく必要があるが,本研究では,そのための準備として,震災による喪失感を測定する尺度の作成を試みる。
方法
調査協力者:福島県内の大学(2校)に通学している学生計175人(男性114人,女性61人;平均年齢19.6歳,SD1.1)。
調査方法:授業終了後に調査票を配布した。その場で回答してもらった場合と,後日郵送により回収した場合とがある。いずれも無記名式である。
調査内容:東日本大震災による喪失感を測定する質問項目を28項目用意し,それぞれについて震災によりどの程度失ったと感じたか5件法での回答を求めた(以下,「震災による喪失感尺度原案」とする)。これら質問項目の作成にあたっては,小此木(1979)の対象喪失の3分類を基本的枠組みとし,事前に実施した震災により失ったことに関する自由記述結果を参考にした。また,東日本大震災による被害程度に関する質問(住居の被害,自分自身のけが,家族の被害,避難)を行った。さらに,回答者の年齢及び,性別を尋ねた。
調査時期:2013年12月~2014年1月
結果と考察
震災による喪失感尺度原案のうち,回答に極端な偏りが見られた項目を除外した残りの15項目について,因子分析(主因子法プロマックス回転)を実施した。最終的に因子数を2とし,第1因子を「生活安全喪失感」(9項目,α係数.863),第2因子を「社会信頼喪失感」(6項目,α係数.866)とした。以下,震災による喪失感については,この2つの下位尺度ごとに得点を集計し,得点が高いほどそれぞれの喪失感が高いとした。
震災による被害程度については,比較的得点分布の偏りが小さかった「住居の被害」を用い,「被害なし」<「家具倒れた」<「建物損壊」の順で被害程度が大きいとした。
「生活安全喪失感」もしくは「社会信頼喪失感」を従属変数とし,独立変数を震災被害程度(「被害なし/家具倒れた/建物損壊),性別(男/女),年齢(成人/未成年)とする3要因分散分析(被験者間要因)を行った。「生活安全喪失感」,「社会信頼喪失感」のいずれを従属変数とした場合も,交互作用は有意でなく,震災被害程度と性別のそれぞれの主効果が有意あるいは有意傾向となった。震災被害程度についての多重比較の結果は「生活安全喪失感」,「社会信頼喪失感」のいずれを従属変数とした場合も,被害なし<家具倒れた=建物損壊,であった。なお,主効果が見られた震災被害程度別と性別とで「生活安全喪失感」と「社会信頼喪失感」の得点の平均値が比較できるようグラフに示した(Figure 1, Figure 2)。
物理的な震災被害があると喪失感が高くなったことは当然とも言える結果である。また,女性は喪失感が高いことから,震災の心理的影響は性差を考慮する必要がある。今後は,震災による喪失感と心理的健康との関係について調べていきたい。
引用文献
小此木啓吾(1979).対象喪失 中公新書
齊藤誠一他(2013).東日本大震災の心理的影響に関する研究 日本教育心理学会第55回総会発表論文集,480.
齊藤誠一他(2014).東日本大震災の心理的影響に関する研究2 日本発達心理学会第25回大会発表論文集,605.