日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC004] 読んだ本のジャンルが言語力に及ぼす影響

小学校低学年児童への縦断調査による発達的検討(2)

上田紋佳1, 猪原敬介2, 塩谷京子#3, 小山内秀和4 (1.ルーテル学院大学, 2.電気通信大学, 3.関西大学, 4.京都大学)

キーワード:読書, 言語力, 文章理解力

児童期における読書が言語力を高めることが多くの研究によって示されている(e.g., Mol & Bus, 2011)。しかしながら,それに比して,読む本のジャンルの違いが言語力に及ぼす影響についての研究は非常に少ない。フィクションを中心に読む場合と,ノンフィクションを中心に読む場合では,本の内容,用いられる言葉など,非常に多く面で異なると考えられる。
PISA調査(2009)では,各ジャンルでそのジャンルを多く読む群と読まない群を比較したところ,フィクション,ノンフィクション,新聞のカテゴリーにおいて,多く読む群の方が総合読解力が高いことが報告されている。また,Guthrie et al.(2007)では,物語を読むことへの動機付けは読解力と相関するのに対して,情報系の本を読むことへの動機付けと読解力の相関関係は有意でない場合があることが示されている。
これらの先行研究は,読む本のジャンルの違いが言語力に及ぼす影響があることが示唆しているが,測定された読書量は自己報告によるものであり,実際の読書の実態を十分反映していると言い難い。そこで本研究では,小学校図書室における図書貸し出しデータを用いて,読んだ本のジャンルの違いが言語力に及ぼす影響を検討する。具体的には,読んだ本のジャンルが,1年後の言語力に及ぼす影響について検討する。
方 法
参加者 測定は2013年12月(T1)と2014年12月(T2)に行われた。T1とT2の両方のテストに参加した4年生(T1時点)56名を分析対象とした。
測定指標 図書貸出数は,協力校の図書室における2013年4月から12月までの図書貸出数を用いた。ジャンルは日本十進分類法の区分によって,分類した。
言語力の測定として,Reading-Test(福沢・平山, 2009)を用いた。Reading-Testは,読字力,語彙力,文法力,文章理解力の4つのサブテストから構成される。
手続き T1およびT2の測定は,すべて協力校の担任教員によって,授業中,朝の会,帰りの会などの時間に行われた。
結果および考察
Reading-Testの正答率の平均(SD)をTable 1に,図書貸出数の平均(SD)をTable 2に示した。
重回帰分析では,Reading-Testの各サブテストの正答率を目的変数とした。各サブテストの言語力(T2)を目的変数とし,言語力(T1)および絵本,文学,その他(文学以外のジャンル)を説明変数とする重回帰分析を行った(Table 3)。その結果,文章理解力に関しては,絵本・文学以外のジャンルの標準化偏回帰係数が有意であった。つまり,T1の文章理解力および絵本と文学の読書の影響を統制した絵本・文学の以外のジャンルの読書の独自の成分が,T2の文章理解力に影響していた。このことから,文章理解力の向上には,文学のジャンルを読むことに加えて,文学以外の多様なジャンルの本を読むことが寄与する可能性が示された。