日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC070] 自閉症スペクトラム障害のある児童の言語的な表示規則の使用に関する探索的検討

P-Fスタディの図版を用いて

田村綾菜 (愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)

キーワード:自閉症スペクトラム障害, 言語的な表示規則, P-Fスタディ

【問 題】
表示規則(display rules)とは,どのような場面でどのように情動を表出すべきかといった情動表出に関するルールのことで(Ekman & Friesen, 1969),例えば,期待外れのプレゼントをもらってもポジティブに反応するといったものである。自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもは表示規則は理解しているものの,定型発達児に比べて表示規則の使用が不適切で(Barbaro & Dissanayake, 2007),表示規則のの相互対人的機能を十分には理解していない(Begeer, et al., 2011)ことなどが指摘されている。これまでの研究では,主に表情などの非言語的な表出の調整に焦点があてられてきたが,言語表出の調整にも同様のルールが存在すると考えられる。そこで,本研究では言語的な表示規則の使用に焦点を当て,ASDのある児童がどのような場面で,どのように言語表出を調整するのかを探索的に検討することを目的とした。その際,対人場面における発言を求めており,言語表出行為を検討するのに適していると考えられるP-F スタディの図版を用いることとした。
【方 法】
実験参加者 知的障害を伴わないASDのある男児5名(2年生1名,4年生1名,5年生3名,平均FIQ:100.4±9.6)が実験に参加した。手続き 1人ずつ個別に課題を実施した。まず,P-Fスタディ児童用日本版第Ⅲ版(三京房)の図版24場面を1つずつPCモニターに提示し,実験者が左側の人物の発言を読み上げた後,右側の人物が何と言うか(発言)を口頭で回答してもらった。24場面の回答終了後,今度は各図版の右側の人物に内心を表す吹き出しを加えたものを1つずつPCモニターに提示し,実験者が左側の人物の発言を読み上げた後,右側の人物が心の中でどう思っているか(内心)を口頭で回答してもらった。回答は実験者がその場で記録用紙に記入した。
【結果と考察】
内心と発言それぞれの回答について林(2007)の手引きに基づき分類し,5名全員の内心と発言が不一致であった5場面(場面4, 6, 7, 15, 22)について,場面の特徴と反応パターンを検討した。その結果,5場面中4場面が大人に対して発言する場面で,そのうち2場面は自己の過失を責められている場面であった。また,大学生を対象とした同様の調査(田村, 2014)においても一致率の低かった場面15, 22において,相手に心配をかけないための儀礼的な嘘や,自己呈示的な道具的謝罪などの反応パターンがみられたことから,ASD児も大人と同様の言語的な表示規則を使用している可能性が示唆された。今後,対象者の人数を増やし,定型発達児との比較を行う必要がある。
【引用文献】
Barbaro & Dissanayake (2007). Journal of Autism and Developmental Disorders, 37, 1235-1246.
Begeer, et al. (2011). Cognition &Emotion, 25, 947-956.
Ekman & Friesen (1969). Semiotica, 1, 49- 98.
林 (2007). P-Fスタディ解説 三京房
田村 (2014). 学苑, 869, 83-88.
【付 記】
本研究を行うにあたりご協力いただきました,京都大学こころの未来研究センター「発達障害の学習支援・コミュニケーション支援」プロジェクトの関係者のみなさまに深く感謝いたします。なお,本研究はJSPS科研費 25780395の助成を受けたものです。