日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC074] 中学生における職場体験学習の効果の検討

キャリア意識と自己有用感において

松浦和輝1, 三宅幹子2 (1.岡山大学大学院, 2.岡山大学)

キーワード:キャリア教育, 職場体験学習, 自己有用感

目的
本研究では,中学生のキャリア発達段階で必要とされる自己有用感の獲得に注目をした。キャリア教育の中でも,子どものキャリア発達に大きな影響を与えると考えられる職場体験学習において得られた経験が,日常生活での自己有用感に与える効果について検討することを目的とした。
方法
対象者 公立中学校の2年生99名,1年生122名の計195名。このうち,職場体験学習を経験したのは2年生であった。また,有効回答者数は2年生76名,1年生107名であった。
調査内容 (1).中学生版キャリア意識尺度(新見,2008) :人間関係,情報活用,将来設計,意思決定の4因子から構成される6段階評定の尺度である(27項目)。(2).自己有用感尺度(栃木県教育センター,2013):承認,貢献,存在感,関係性の4因子から構成される5段階評定の尺度である(10項目)。なおこの尺度は,家庭,クラス,先生の3つの関係について,それぞれ問う形式となっている。
手続き プレテストとポストテストは職場体験学習(2014年11月中旬)の前後1週間以内に1回ずつ行った。また,フォローアップテストは,2年生は12月下旬,1年生は1月上旬に行った。
結果と考察
因子分析の結果,抽出された因子ごとの学年別にみた平均値を,キャリア意識と自己有用感についてそれぞれTable1に示す。
職場体験の効果を検討するため,調査回数と学年を要因とする2要因の分散分析を行った。キャリア意識尺度においては,全体得点と「将来設計」,「意思決定」において測定時期の主効果(F(2,360)=3.57,p<.05;F(2,360)=3.12,p<.05;F(2,360)=4.69,p<.01),が有意であった。
また自己有用感尺度においては,家庭での「承認・貢献」において測定時期の主効果(F(2,360)=7.54,p<.001)と交互作用(F(2,360)=8.00,p<.001),家庭での「存在感・関係性」において交互作用(F(2,360)=5.32,p<.01),クラスでの「貢献」において交互作用(F(2,360)=5.97,p<.01),クラスでの「存在感」において測定時期の主効果(F(2,360)=3.21,p<.05)と交互作用(F(2,360)=7.86,p<.001),クラスでの「関係性」において交互作用(F(2,360)=3.76,p<.05),先生との「承認・貢献」において測定時期の主効果(F(2,360)=5.25, p<.01),先生との「存在感」において測定時期の主効果(F(2,360)=9.62, p<.001)と交互作用(F(2,360)=7.01,p<.01),先生との「関係性」において交互作用(F(2,360)=3.76, p<.05)がみられた。
交互作用のみられたものを中心に,多重比較の結果を以下に示す。まず実施群のみにみられた変化として,家庭での「承認・貢献」及び「存在感・関係性」においてプレからポストにかけて上昇が,ポストからフォローアップにかけては下降がみられた。また,クラスでの「貢献」及び先生との「存在感」において,プレからポストにかけて上昇がみられたのに対して,クラスでの「関係性」及び先生との「関係性」においてプレとポストからフォローアップにかけて下降がみられた。未実施群にのみ見られた変化は,クラスでの「存在感」,先生との「存在感」,「関係性」において,プレとポストからフォローアップにおいて上昇がみられた。
キャリア意識と自己有用感の各因子についてプレテストとポストテストの得点差を算出し,それらの間の相関係数を算出した。キャリア意識と自己有用感の間の相関をみると,1年生には人間関係と家での存在感関係性の間,意思決定及び将来設計とクラスでの存在感及び先生との承認貢献の間にr=.20程度の低い正の相関が認められた。また,情報活用とクラスでの貢献においてもr=.20の低い正の相関が認められた。2年生においては,1年生に比べて正の相関が多く認められ,特に先生とクラスにおける自己有用感との正の相関が多く認められた。また,1年生では低い相関しか見られなかったが,情報活用及び意思決定とクラスでの存在感の間,人間関係及び将来設計とクラスでの存在感の間にそれぞれr=.45,r=.34の中程度の正の相関が見られた。
以上から職場体験学習がキャリア意識と自己有用感に与える影響が示された。また,職場体験を行った2年生では,キャリア意識の各因子の変化が自己有用感の変化と関連していることから,自己有用感の変化によってキャリア意識の変容がもたらされる可能性が示唆された。