日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD040] 大学生における創造観とアイデア生成の関連性(2)

思考の柔軟性の側面に着目して

山口洋介1, 三宮真智子2 (1.大阪大学大学院, 2.大阪大学大学院)

キーワード:創造観, 創造的思考, 拡散的思考

目 的
本研究の目的は,創造観,すなわち,創造的思考に関して抱いている信念やイメージが,アイデア生成に及ぼす影響について検討することであった。山口・三宮(2014)においては,「どれだけ多くのアイデアを生み出せたか」という思考の流暢性の側面に着目した。分析の結果,流暢性の高い者と低い者との間で,抱かれている創造観に違いの見られることが示唆された。本研究では,「内容的にどれだけ多様なアイデアを生み出せたか」という思考の柔軟性に着目し,創造観との関連性について検討を行うこととした。
方 法
参加者:大学生および大学院生202名(女性92名,男性105名,不明5名)を対象とした。所属は,社会科学系・人文学系が中心であった。
創造観に関する質問:「創造的なアイデアを生み出すためには,何が必要だと思いますか?」と尋ね,3分間で筆答を求めた。どのような創造観に分類されるかをコーディングした後,参加者ごとに各創造観の回答の有無を集計した。
アイデア生成課題:「いつもと同じようにカレーを作ったはずなのに,おいしくありません。なぜでしょうか?」という問題について,5分間で筆答を求めた。生み出されたアイデアがどのようなカテゴリに分類されるかをコーディングした後,参加者ごとにカテゴリ数を集計した。
結果および考察
アイデア生成課題におけるカテゴリ数は,平均5.23個(SD=2.13)であった。本研究では,平均値±SDの値を基準に,カテゴリ数に関して低群(1~3個)・中群(4個~7個)・高群(8個~)の3群を設定した。各創造観に関して群間で報告者数に偏りがあるかを検討するために,χ2検定および残差分析を行った。群別の各創造観の報告者数および検定結果(一部)をTable 1に示す。
群間での偏りが有意な創造観は,「意欲・関心の高さ」「自信を持つ」「行動力」の3つであった。残差分析を行ったところ,いずれも柔軟性高群に有意に多いことが明らかになった。すなわち,思考の柔軟性が高い者は,創造的なアイデアを生み出すうえで,意欲・関心,自信,行動力が重要であるという認識を抱きやすいことが示された。また,「アイデア生成のトレーニング」「考えを紙に書き出す」「才能」という3つの創造観に関しても,群間における偏りが有意傾向であった。残差分析を行ったところ,前者2つは柔軟性高群に多く,「才能」は柔軟性低群に多いことが示唆された。
Dweck(1986)の知能観に関する言及と同様に,「創造的思考力は高められる」という増大的な能力観と「創造的思考力は変えられない」という固定的な能力観のどちらに近い見方を有しているかによって,その人物の行動やパフォーマンスは異なってくると考えられる。本研究のみで因果関係を特定することは困難であるが,創造観の違いが,注意資源の配分や自我関与の程度などを媒介して,思考の柔軟性に影響を及ぼしているのではないかと推測された。そのため,柔軟な思考を促すためには,能力のみならず,信念のレベルにも着目した教育的介入が重要だと言えるだろう。
一方で,創造観に関する質問への回答数を群間で比較したところ,それぞれの群間で有意な差が見られた(F (2, 199)=9.66, p<.001;低群M=4.63, SD=2.13;中群M=5.90, SD=2.92;高群M=7.50, SD=2.84)。回答数の差が結果に影響を及ぼした可能性もあり,さらなる検討が求められる。
主要引用・参考文献
山口洋介・三宮真智子 2014 大学生における創造観とアイデア生成の関連性 日本教育心理学会第56回総会発表論文集,p.199.
付 記
本研究は,科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:三宮真智子,No. 26350278)の補助を受けました。