[PE040] 学習効果のフィードバックが学習意欲に及ぼす影響
マイクロステップ測定法を用いた学習支援
キーワード:学習意欲, フィードバック, マイクロステップ測定法
問題と目的
学力の低下が叫ばれる中,子どもの学習意欲をどのようにして高めるかという問題は大きな課題である。学習意欲の向上には学習に対する自己効力感を高めることが効果的であると考えられるが,既存の教材を用いた学習では「やればできる」という実感を得ることは難しい。一方,マイクロステップ測定技術を用いた学習では,日々のわずかな学習効果の推移を厳密に描き出すことが可能になっている。そこで本研究では,学習の効果が実際に積みあがっていく様子をグラフで視覚的に示しながら指導を行うことによって,子どもの学習意欲にどのような影響がみられるかについて検討することを目的とした。
方 法
実験参加者 中学生329名(1年生124人,2年生88人,3年生117人)が実験に参加した。これらの参加者のうち,実験群として,学習状況を示すグラフにおいて成績の向上が視覚的に顕著である子どもを選出し,その後,実験協力校の教員により指導可能な子ども25名が選出された。さらに統制群として,成績グラフにおいて成績の向上が顕著ではなく,さらに指導時期に近い期間に学習意欲のデータを収集した子ども18名が選出された。
刺激 学習教材として,漢字の書き取りドリルと英単語の学習ドリルを作成した。英単語の学習では,実験協力校で使用されている2年生の英語の教科書における新出語が材料として用いられた。また,漢字の書き取り学習では,矢地(2010)により作成された小学校で学習する漢字を含む語句リストのうち,難易度6の刺激が材料として使用された。
尺度 学習意欲の測定尺度として,学芸大式学習意欲検査(簡易版)(下山・林ら,1983)から,自主的学習態度,達成志向,反復持続性の3つの尺度を用いた(計15項目)。
手続き 実験協力校の要望により,中学1・2年生は漢字の書き取り学習を,3年生は英単語の学習を8か月間実施した。ドリル学習は,それぞれの語句に対して理解度の自己評定を行う4日間の学習と1日の客観テストの5日間を1サイクルとしてスケジューリングされていた。ドリル学習の最後に学習意欲に関する質問項目を挿入し,1サイクルの間にデータを収集できるようにした。また,8か月の実験期間において,学習意欲は3サイクルおきに繰り返し測定された。
実験開始後8か月目に,実験協力校において教師による学習効果のフィードバックが実施された。実験群では,自身の成績の推移を表すグラフを子どもに示しながら,日々の学習の効果がみられること,自信を持って勉強を続けるようになど,教師が個別に短時間(1~2分間)の指導を行った。その後,子どもにアンケート用紙を配布し,一週間以内に学習意欲に関する尺度の質問項目に回答してもらった。統制群については,自身の成績の推移を表すグラフのみを配布し,教師による個別の指導は行われなかった。
結果と考察
自主的学習態度,達成志向,反持続性の3つの尺度得点を算出し,それぞれについて実験・統制群と指導前後の2要因の分散分析を行った。分析の結果,自主的学習態度については交互作用が有意であった(F (1, 41)=8.65, p<.01)。単純主効果の検定を行ったところ,実験群と統制群の指導後の自主的学習態度得点間に有意差がみられ(F (1, 41)=4.42, p<.05),統制群において指導前後で自主的学習態度得点が優位に低下したが(F (1, 41)=5.79, p<.05),実験群では上昇する傾向がみられた(F (1, 41)=3.07, p<.10)。達成志向についても交互作用が有意であり(F(1, 39)=6.69, p<.05),実験群において,指導前後で達成志向得点が有意に上昇した(F(1, 39)=4.25, p<.05)。反持続性については,主効果も交互作用もともに有意ではなかった。
以上から,反持続性については指導の効果はみられなかったものの,学習効果を表すグラフを用いた指導によって,自主的学習態度と達成志向得については維持,あるいは向上することが示された。学習の効果が積み重なっていくことを視覚的に示しながら教師が個別に指導を行うことによって,子どもの学習に対する自己効力感が高まり,その結果,学習意欲が向上した可能性が考えられる。
付 記
本研究は,科学研究費補助金による助成を受けた (基盤研究A,課題番号:22240079, 研究代表者:寺澤孝文).
学力の低下が叫ばれる中,子どもの学習意欲をどのようにして高めるかという問題は大きな課題である。学習意欲の向上には学習に対する自己効力感を高めることが効果的であると考えられるが,既存の教材を用いた学習では「やればできる」という実感を得ることは難しい。一方,マイクロステップ測定技術を用いた学習では,日々のわずかな学習効果の推移を厳密に描き出すことが可能になっている。そこで本研究では,学習の効果が実際に積みあがっていく様子をグラフで視覚的に示しながら指導を行うことによって,子どもの学習意欲にどのような影響がみられるかについて検討することを目的とした。
方 法
実験参加者 中学生329名(1年生124人,2年生88人,3年生117人)が実験に参加した。これらの参加者のうち,実験群として,学習状況を示すグラフにおいて成績の向上が視覚的に顕著である子どもを選出し,その後,実験協力校の教員により指導可能な子ども25名が選出された。さらに統制群として,成績グラフにおいて成績の向上が顕著ではなく,さらに指導時期に近い期間に学習意欲のデータを収集した子ども18名が選出された。
刺激 学習教材として,漢字の書き取りドリルと英単語の学習ドリルを作成した。英単語の学習では,実験協力校で使用されている2年生の英語の教科書における新出語が材料として用いられた。また,漢字の書き取り学習では,矢地(2010)により作成された小学校で学習する漢字を含む語句リストのうち,難易度6の刺激が材料として使用された。
尺度 学習意欲の測定尺度として,学芸大式学習意欲検査(簡易版)(下山・林ら,1983)から,自主的学習態度,達成志向,反復持続性の3つの尺度を用いた(計15項目)。
手続き 実験協力校の要望により,中学1・2年生は漢字の書き取り学習を,3年生は英単語の学習を8か月間実施した。ドリル学習は,それぞれの語句に対して理解度の自己評定を行う4日間の学習と1日の客観テストの5日間を1サイクルとしてスケジューリングされていた。ドリル学習の最後に学習意欲に関する質問項目を挿入し,1サイクルの間にデータを収集できるようにした。また,8か月の実験期間において,学習意欲は3サイクルおきに繰り返し測定された。
実験開始後8か月目に,実験協力校において教師による学習効果のフィードバックが実施された。実験群では,自身の成績の推移を表すグラフを子どもに示しながら,日々の学習の効果がみられること,自信を持って勉強を続けるようになど,教師が個別に短時間(1~2分間)の指導を行った。その後,子どもにアンケート用紙を配布し,一週間以内に学習意欲に関する尺度の質問項目に回答してもらった。統制群については,自身の成績の推移を表すグラフのみを配布し,教師による個別の指導は行われなかった。
結果と考察
自主的学習態度,達成志向,反持続性の3つの尺度得点を算出し,それぞれについて実験・統制群と指導前後の2要因の分散分析を行った。分析の結果,自主的学習態度については交互作用が有意であった(F (1, 41)=8.65, p<.01)。単純主効果の検定を行ったところ,実験群と統制群の指導後の自主的学習態度得点間に有意差がみられ(F (1, 41)=4.42, p<.05),統制群において指導前後で自主的学習態度得点が優位に低下したが(F (1, 41)=5.79, p<.05),実験群では上昇する傾向がみられた(F (1, 41)=3.07, p<.10)。達成志向についても交互作用が有意であり(F(1, 39)=6.69, p<.05),実験群において,指導前後で達成志向得点が有意に上昇した(F(1, 39)=4.25, p<.05)。反持続性については,主効果も交互作用もともに有意ではなかった。
以上から,反持続性については指導の効果はみられなかったものの,学習効果を表すグラフを用いた指導によって,自主的学習態度と達成志向得については維持,あるいは向上することが示された。学習の効果が積み重なっていくことを視覚的に示しながら教師が個別に指導を行うことによって,子どもの学習に対する自己効力感が高まり,その結果,学習意欲が向上した可能性が考えられる。
付 記
本研究は,科学研究費補助金による助成を受けた (基盤研究A,課題番号:22240079, 研究代表者:寺澤孝文).