日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

2016年10月8日(土) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PA42] 理科実験の材料選択に関する教員志望学生の認識

「教科書にない例」の選択を中心に

工藤与志文1, 小石川秀一#2 (1.東北大学, 2.東北福祉大学)

キーワード:理科実験, ルール, 事例

問   題
 理科の教科書では多種多様な個別的現象に関する記述とともに,それらを包括する法則的知識(ルール)について説明がなされる。教科書では①問題の設定②設定された問題を解決するための実験・観察等とその結果の説明③ルールの提示という流れで記述されることが多い。この場合,②は③で示されるルールの「事例」としての役割を果たしていると考えるならば,教科書は“発問→事例→ルール”という構成をとっていることになる。つまり,実験や観察はあくまでルールの事例であり,目標の達成にさしつかえないかぎり,教科書にない例であっても,適宜選択してよいことになる。これに対し,学習目標を②でとりあげた個別的現象の理解ととらえるならば,教科書にない実験・観察を選択することは容認されないはずである。本研究では,教員養成系学部に属する大学生に対し,理科の教科書にない例を実験材料として選択することに対する考え方を尋ねる調査を行い,実験の事例選択に関する考え方やその理由について明らかにしたい。
方   法
対象者 私立大学の教員志望学生126名。小学校教員の志望者がその中心である。
調査概要 教職関連科目の時間内に調査用紙を配布し,記入を求めた。調査用紙には,『新しい理科5』(東京書籍)の「植物の発芽と成長」のうち,発芽の条件に関する部分をそのまま掲載した。そこにはインゲンマメを用いた発芽実験に関する記述が含まれている。読解後に教科書の内容をふまえて課題に答えることを求めた。
調査課題 課題1では「教科書にあるとおり,授業でもインゲンマメで実験すべきだ」と「発芽条件がわかりやすいものであれば,どんな種子で実験してもよい」のうち,どちらに賛成か,その理由は何か自由記述で尋ねた。課題2では,授業でインゲンマメを使って実験した後,他の先生から受けた「インゲンマメ以外の種子の発芽も見せた方がいいよ」というアドバイスについてどう思うか,アドバイスの受容の程度の異なる選択肢から選ばせた。課題3では教科書のこの部分を授業する場合,子どもたちにもっとも学習してほしいと思う事柄は何か,選択肢から選ばせた。
結果と考察
 課題1で「教科書にあるインゲンマメで実験すべき」に賛成した者は43名(34%)であった。賛成理由としては「わかりやすさ」に関連するものが多かったが,どのような学習にとってわかりやすいのか,具体的に記述した例は少なかった。また,ルール(一般的な発芽条件)学習にとってのわかりやすさに言及した例は皆無であった。一方,「わかりやすければどんな種子で実験してもよい」に賛成した者は83名(66%)であったが,その理由は多岐にわたり,ルール学習が目標となっていることを理由とした学生は少なかった。課題2では課題1と異なり,教科書にない事例を用いることに否定的な回答はみられなかったが,これには「インゲンマメで学習後」という条件が影響しているだろう。課題3において「一般的な発芽条件」(ルール)を選んだ者は80名(63%)にとどまり,29名(23%)の学生が「インゲンマメの発芽条件」を選んだ。教科書のまとめは種子一般の発芽条件となっているにもかかわらず,例として選択された植物の理解を単元目標と誤解している学生が2割程度存在することがわかる。
 以上の結果が示すように,教科書にない事例の選択を許容する学生は決して少なくないものの,学習の目標がルールであることをふまえた上での判断であるとは限らないことがわかる。全体的にみれば教科書のルール・事例構造の認識が十分とはいえない。この点が,授業展開にどのような影響を与えるのか,検討する必要があるだろう。