日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB78] 教員の自己形成を支援するための熟達化モデル開発に関する研究

石上浩美 (大手前大学)

キーワード:教員の自己形成, 熟達化, 教師教育

問題と目的
 石上(2011,2012,2013,2014)は,教員の職務上の葛藤・困難感とその問題解決に関する数量調査と質的調査を行い,「教員の自己形成を支援する熟達化モデル」の開発を試みた(石上,印刷中)。これは,教員のライフコースにおける学びについて,生涯発達の観点から分析し,それをふまえた外的支援のあり方について示したものである。そこで本発表では,これらの総括を行い,中教審(2015)における方針もふまえ,教員の人財育成と生涯発達の関係について,再度考察してみたい。
方   法
1)数量調査
調査期間:20XX年6月-9月
調査方法:以下Web上の質問紙調査(5件法)
http://kyoto-seika.org/kaken-manabi/chosaform.html
有効回答数:1536名(小学校852名,中学校386名,高校298名)
2)質的調査
・調査期間:20XX年11月-20XX年3月
・調査方法・対象者:半構造化面接法による個別インタビューデータ分析,関東・中部・近畿地方の公立学校に勤務する教諭69名(小学校35名,中学校21名,高校13名)
結果と考察
1)数量調査:教員の学校種別職務認識をTable.1に示す。各学校種における特徴をふまえた重点支援の方向性を見出すことができた。
・小学校:葛藤・困難感,人的リソースの活用,体験知の転用,職務上のスキル向上意欲が高いものの,満足感や現職に対するやりがい,継続意欲は低い。そのため,自己効力感や達成感など,職務に対する満足感を向上させるような熟達化支援モデルを検討した。
・中学校:葛藤・困難感や満足感,意欲は低い。その一方で,自己努力によって問題解決を図っているため,努力を妥当に評価することによって,職務に対する満足感や意欲を向上させるような熟達化支援モデルを検討した。
・高等学校:満足感や現職に対するやりがい,継続意欲が極めて高い。その一方で,問題解決,職務上のスキル向上意欲は低い。これは,指導方略や専門性における水準が他の2学校種とは異質であるとも考えられる。そのため,本研究では,熟達化支援の必要性が低いとみなした。
2)質的調査:初任者・若手教員の発話事例を示す。共通点は,日々の多忙感であり,物理的・精神的な余裕のなさである。これは,TALIS調査(2013)とほぼ同様の結果を示した。

小学校初任者Aさん(20代前半)
校内研修と時間です。毎日,子どもとかかわりながら,何とかやっていますが,とっさに(何をどうすればよいのか)わからないとき,先輩(教諭)が頼りです。(学外)初任研に行くときも(自分のクラスの指導を)先輩にお願いしますが,結構気を使います。(自分が勤務する)学校での研修がもっとあればいい,と思います。ずっと1日中,学校や仕事のことを考えていて,今は気持ちに余裕がないです。

小学校若手Bさん(任用4年目:20代後半)
なんだかんだと走り回っているうちに,1日が終わっている感じがする。もっと子どもと一緒に遊んであげたいし,後輩の先生の話も聞いてあげたいと思うけれど,目の前で起こっていることを処理するので精一杯。上(管理職)はもう(Bさんのことを)かばってくれず逆にいろいろやれと言われる。授業も,もっとしっかりやりたいけれど,準備や考える時間がない。これから教師を続けるためにも,もっと自分が勉強するための時間,考えるための時間がほしいです。

※本研究において開発した支援モデルについての詳細は,以下URLで公開している
 http://kyoto-seika.org/kaken-manabi/index.html