日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF13] 幼児期におけるスクリプトの一般性の検討

心の理論との関連に着目して

柳岡開地1, 子安増生2 (1.京都大学・日本学術振興会, 2.甲南大学)

キーワード:スクリプト, 一般化, 心の理論

目   的
 ある出来事を構成する行動系列に関する知識のことをスクリプト(Schank & Abelson,1977)と呼ぶ。先行研究では,3歳児からすでにスクリプトを言語報告できることが示されている(Nelson & Gruendel,1981)。しかし,スクリプトの特徴の1つである一般化についてはほとんど検討されていない。スクリプトの一般化とは,多くの場面や人に共通する要素と,個々の場面や人を特徴付ける要素を区別して表象できることを指す(藤崎,1995; Schank & Abelson,1977)。本研究では,特に人物間におけるスクリプトの一般化の発達的変化について検討した。また,スクリプトの一般化には,自他間のスクリプトに共通する要素,差異のある要素の区別が必要となる。そのため,本研究では自他理解の指標となる心の理論が関連すると予想した。
方   法
 参加児 京都市内の私立幼稚園に通う園児58名(男児27名,女児31名)を対象に個別実験をおこなった。その内訳は,4歳児29名(平均年齢4;5),5歳児29名(平均年齢5;3)であった。
 手続き 本研究では,1回目と2回目の両方で,スクリプト構成課題を,個人内で条件をかえて実施した。また,絵画語い発達検査(上野・名越・小貫,2008)と1次の誤信念課題(Wimmer & Perner,1983)1問を実施した。
 スクリプト構成課題 スクリプト構成課題は,幼児に幼稚園スクリプトを口頭で回答させる課題であった。本研究では,自己条件と他者条件の2つを個人内で実施した。自己条件では,参加児が幼稚園に来てから帰るまで,いつも幼稚園でどんなことしているか回答するよう求めた。一方,他者条件では,架空の人物の絵とその人物が通う幼稚園の絵を見せて,トムくん(ナオミちゃん)はいつも幼稚園(絵を指して)でどんなことしているか回答してもらった。
結   果
 本研究ではスクリプト構成課題の条件間の差を測定するために,本人条件と他者条件でスクリプトに含められる行為の相違数を1つ目の指標とした。2つ目の指標として,条件間でのスクリプトに含められる行為の相違種類数を用いた。具体的には,本人条件では「お外遊びをする。ご飯を食べる。帰る」,他者条件で「ご飯を食べる。お仕事をする」といった場合,相違数であれば1点で,相違種類数であれば2点となった。
 条件間における行為の相違数(Table 1)に年齢差があるかを検討したところ,自己条件と他者条件で発言した行為の相違数に有意な差があった (F (1,56) = 36.42,p < .001,η2 = .39)。また,年齢の交互作用も有意であった(F (1,56)= 12.92,p = .001,η2 = .19)。5歳児においてのみ,架空の他者に言及する行為数は少なかった。また,相違種類数でも同様の傾向の結果が得られた(Table 1)。
 さらに,条件間の差がともに誤信念課題と有意な相関があった(相違数:r (58) = .34,p <.01; 相違種類数:r(58) = .45,p <.001)。
考   察
 5歳児ころから人物間で共通する要素と差異のある要素を区別し,スクリプトを一般化しはじめることが示された。また,スクリプトの一般化と自他理解が関連することが示された。