[PA54] 不登校経験を巡る心理的変容プロセスの検討(1)
自己肯定感の高い高校生に着目して
キーワード:不登校経験, 通信制高校, M-GTA
問題と目的
平成18年度追跡調査(不登校生徒に関する追跡調査研究会,2014)によると,中学校卒業時に進学した生徒は平成5年度追跡調査(森田,2003)の65.3%に比べ87.2%と大きく増加している。しかし金子・伊藤(2015)によれば,不登校経験者の中には,高校生活に適応し,安定した進路を取る者もいれば,高校生活に適応できず,その後も不安定な状態にある生徒もいることが示唆されている。本研究では,不登校経験のある高校生の手記をもとに,自尊感情が高く,高校では適応的に過ごしていると考えられる生徒に着目し,不登校経験時から高校在学中の現在に至る彼らの心理的変容過程を明らかにし,不登校経験がその後の高校生活にどのように影響するかについて検討する。
調査対象
広域A通信制高校に通う127名(男子64名,女子61名,不明2名)を対象とした。中学校時代に不登校を経験しており,高校では登校を継続している生徒である。平均年齢は16.8歳で,1年生36 名,2年生42名,3年生47名,不明2名だった。
調査手続き
201X年10月~201X+1年3月,A通信制高校の各分校において,担任教員が生徒に対して自尊感情に関するアンケートと各自の不登校経験に関する質問とそれに対する自由記述用紙を配布し,回答を求めた。
調査内容
1.自尊感情尺度(東京都版)(伊藤・若本,2010):22項目,4件法。<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>の3因子からなる。
2.不登校の始まりから渦中,そして現在に至る心境についての手記調査:34項目の質問に回答を求めた。質問内容の概要は,
①不登校に至る前の状況と心境
②不登校中の状況と心境
③高校進学を決める際の状況と心境
④高校進学後の状況と心境
⑤家族や学校の先生との関わり
についてである。
調査対象者の分類
自尊感情尺度22項目から自尊感情得点(レンジ22~88点)を算出し,88~66点を自己肯定群(55名),65~55点を中間群(53名),54~22点を自己否定群(19名)と分類した。本研究では自己肯定群の自由記述データを分析対象とした。
研究方法
不登校経験の多様さや個人差を重視し,質的研究を行った。自己肯定群の不登校の始まりから高校生活を送る現在までの経験や心情に関する自由記述データを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)を用いて分析した。
結 果
自己肯定群の心理的変容プロセス
自己肯定群の中学時代から現在(高校生活)に至る心理的変容プロセスは,①不登校前兆期に【不登校への怯え】を抱えているが,不登校になることで【一応の着地】をし,不登校渦中には【不登校の窒息状態】を経験しながらも【浮上への努力】に向かう心情と体験している。そして,②高校に入学し,【自分らしさの回復】に至る心情と体験をしている。このような心理的プロセスに対する影響要因としては【本人要因】【周囲との関係性】【親との関係性】【通信制高校の体制】【前向き思考】の5カテゴリーが抽出された。
考 察
自己肯定群は,不登校前兆期や不登校渦中においては【不登校の怯え】や【不登校の窒息状態】を体験しているが,不登校の最中にも【周囲との関係性】【親との関わり】など支持的な大人との良好な関係が保たれており,支え・守られる環境を持っていた。それにより,不登校による心理的葛藤を抱えながらも,次第に低下した自尊感情を回復させていったと考えられる。回復した自尊感情が【前向き思考】であり,この【前向き思考】が高校での学校適応に影響し,【通信制高校の体制】によるサポートによって充実した高校生活を送ることでさらに自信や自尊感情を高めていっていると考えられる。
平成18年度追跡調査(不登校生徒に関する追跡調査研究会,2014)によると,中学校卒業時に進学した生徒は平成5年度追跡調査(森田,2003)の65.3%に比べ87.2%と大きく増加している。しかし金子・伊藤(2015)によれば,不登校経験者の中には,高校生活に適応し,安定した進路を取る者もいれば,高校生活に適応できず,その後も不安定な状態にある生徒もいることが示唆されている。本研究では,不登校経験のある高校生の手記をもとに,自尊感情が高く,高校では適応的に過ごしていると考えられる生徒に着目し,不登校経験時から高校在学中の現在に至る彼らの心理的変容過程を明らかにし,不登校経験がその後の高校生活にどのように影響するかについて検討する。
調査対象
広域A通信制高校に通う127名(男子64名,女子61名,不明2名)を対象とした。中学校時代に不登校を経験しており,高校では登校を継続している生徒である。平均年齢は16.8歳で,1年生36 名,2年生42名,3年生47名,不明2名だった。
調査手続き
201X年10月~201X+1年3月,A通信制高校の各分校において,担任教員が生徒に対して自尊感情に関するアンケートと各自の不登校経験に関する質問とそれに対する自由記述用紙を配布し,回答を求めた。
調査内容
1.自尊感情尺度(東京都版)(伊藤・若本,2010):22項目,4件法。<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>の3因子からなる。
2.不登校の始まりから渦中,そして現在に至る心境についての手記調査:34項目の質問に回答を求めた。質問内容の概要は,
①不登校に至る前の状況と心境
②不登校中の状況と心境
③高校進学を決める際の状況と心境
④高校進学後の状況と心境
⑤家族や学校の先生との関わり
についてである。
調査対象者の分類
自尊感情尺度22項目から自尊感情得点(レンジ22~88点)を算出し,88~66点を自己肯定群(55名),65~55点を中間群(53名),54~22点を自己否定群(19名)と分類した。本研究では自己肯定群の自由記述データを分析対象とした。
研究方法
不登校経験の多様さや個人差を重視し,質的研究を行った。自己肯定群の不登校の始まりから高校生活を送る現在までの経験や心情に関する自由記述データを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)を用いて分析した。
結 果
自己肯定群の心理的変容プロセス
自己肯定群の中学時代から現在(高校生活)に至る心理的変容プロセスは,①不登校前兆期に【不登校への怯え】を抱えているが,不登校になることで【一応の着地】をし,不登校渦中には【不登校の窒息状態】を経験しながらも【浮上への努力】に向かう心情と体験している。そして,②高校に入学し,【自分らしさの回復】に至る心情と体験をしている。このような心理的プロセスに対する影響要因としては【本人要因】【周囲との関係性】【親との関係性】【通信制高校の体制】【前向き思考】の5カテゴリーが抽出された。
考 察
自己肯定群は,不登校前兆期や不登校渦中においては【不登校の怯え】や【不登校の窒息状態】を体験しているが,不登校の最中にも【周囲との関係性】【親との関わり】など支持的な大人との良好な関係が保たれており,支え・守られる環境を持っていた。それにより,不登校による心理的葛藤を抱えながらも,次第に低下した自尊感情を回復させていったと考えられる。回復した自尊感情が【前向き思考】であり,この【前向き思考】が高校での学校適応に影響し,【通信制高校の体制】によるサポートによって充実した高校生活を送ることでさらに自信や自尊感情を高めていっていると考えられる。