[PE05] 自然環境における子どもの主体性を意識した保育者の援助
見守り場面から捉えたドイツの保育者の配慮の検討
キーワード:自然環境, 子どもの主体性, 保育者の援助
問題と目的
ドイツの森の幼稚園の子どもは社会情動的スキルの忍耐力,自律性,問題解決能力が優れており(Kiener,2004),森の幼稚園の保育者の援助は見守りを重視している(松石・西,2012)。一般的なドイツの幼稚園では子どもの自主性、主体性が重視されている(芦田ら,2007)。名須川ら(2012)は,自然環境における子どもを主体とした活動において,保育者側の意図を明確にする必要性を指摘している。2017年告示の幼稚園教育要領の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」には「自然との関わり・生命尊重」が含まれ,自然環境と触れ合いをもつ重要性が再認識されている。そこで,日本の自然環境における保育者の在り方の示唆を得るために本研究では,ドイツの森の幼稚園と一般の幼稚園の保育者の見守り場面の援助から意図を含む配慮の内容を明らかにし,比較検討することを目的とする。
方 法
対象 ヘッセン,バイエルン州内森の幼稚園の保育者5名,平均年齢30.4歳,平均教育歴10.6年,バイエルン州内の一般の幼稚園の保育者7名,平均年齢47.8歳,平均教育歴19.1年 期間 2017年5~6月 手続き 半構造化面接の「自然の中で見守る時はどんな場面ですか?また,どのように見守りますか?」の質問に対する語りの逐語記録を作成し,佐藤(2008)を参考に意味内容をオープン・コーディングで整理した。さらに焦点的コーディングに分類した。以下,オープン・コーディングを〈〉,焦点的コーディングを〔 〕で示す。
結果と考察
分析対象の語り(文・節・句)は森の幼稚園の保育者が46,一般の幼稚園の保育者が25であった。森の幼稚園の語りからオープン・コーディングは14,保育者は7が抽出され,それらは両者に共通する6の焦点的コーディングに分類された(Table 1)。オープン・コーディングにおいて,森の幼稚園の保育者は〈状態把握〉の語りの数が16(34.8%)と最も多く,「その子のその日の様子によって」等の語りが得られた。一般の幼稚園の保育者は〈介入抑制〉の語りの数が8(32.0%)と最も多く,「自分がそこに入ってやり取りをしたくなった時には少し我慢して」等の語りが得られた。焦点的コーディングの最も多い語りの数において,森の幼稚園の保育者は〔子どもの背景への配慮〕が16(34.8%),一般の幼稚園の保育者は〔子どもの安全管理上の配慮〕が13(52.0%)であった。
森の幼稚園の保育者は,個々の子どもの体調や心情等の背景に理解を深め,子どもの活動が円滑に促進されるよう配慮していることが考えられる。また,一般の幼稚園の保育者は,子どもの主体的な活動を尊重するために介入を控える配慮をしているが,それは活動前の約束事や保育者の居場所を明示する等の安全面の配慮による葛藤によるものであることが考えられる。
本研究の結果から主体的な子どもの活動を意識した援助には保育者は,自然環境の中で子どもの主体的な成長を育むために子ども一人ひとりを理解し把握することや保育者の介入を控えることを意識的に配慮していく必要があることが示唆された。今後は,日本の自然環境における保育者の援助にも焦点を当て研究を展開することが望まれる。
引用文献
Kiener,S.(2004).Forschungsstand über Waldkindergärten. Schweiz. Z.Forstwes. 155 .3-4: 71-76.
松石友里香・西英子(2012).デンマーク・森の幼稚園における保育環境に関する考察~森の中での保育者の役割~.日本建築学会九州支部研究報告,51,381-384.
芦田宏・秋田喜代美・鈴木正敏・門田理世・野口隆子・小田豊(2007).多声的エスノグラフィー法を用いた日独保育者の保育観の比較検討-語頻度に注目した実践知の明示化を通して-.日本教育方法学会紀要教育方法学研究,32,107-117.
名須川知子・片山知子・米津正人・上垣内伸子・田爪宏二・冨田久枝・西脇二葉・吉川はる奈(2012).「森の幼稚園」試論-北欧から学ぶわが国の幼稚園への可能性-.兵庫教育大学紀要研究,40,11-17.
佐藤郁哉(2008).質的データ分析法―原理・方法・実践.新曜社.
ドイツの森の幼稚園の子どもは社会情動的スキルの忍耐力,自律性,問題解決能力が優れており(Kiener,2004),森の幼稚園の保育者の援助は見守りを重視している(松石・西,2012)。一般的なドイツの幼稚園では子どもの自主性、主体性が重視されている(芦田ら,2007)。名須川ら(2012)は,自然環境における子どもを主体とした活動において,保育者側の意図を明確にする必要性を指摘している。2017年告示の幼稚園教育要領の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」には「自然との関わり・生命尊重」が含まれ,自然環境と触れ合いをもつ重要性が再認識されている。そこで,日本の自然環境における保育者の在り方の示唆を得るために本研究では,ドイツの森の幼稚園と一般の幼稚園の保育者の見守り場面の援助から意図を含む配慮の内容を明らかにし,比較検討することを目的とする。
方 法
対象 ヘッセン,バイエルン州内森の幼稚園の保育者5名,平均年齢30.4歳,平均教育歴10.6年,バイエルン州内の一般の幼稚園の保育者7名,平均年齢47.8歳,平均教育歴19.1年 期間 2017年5~6月 手続き 半構造化面接の「自然の中で見守る時はどんな場面ですか?また,どのように見守りますか?」の質問に対する語りの逐語記録を作成し,佐藤(2008)を参考に意味内容をオープン・コーディングで整理した。さらに焦点的コーディングに分類した。以下,オープン・コーディングを〈〉,焦点的コーディングを〔 〕で示す。
結果と考察
分析対象の語り(文・節・句)は森の幼稚園の保育者が46,一般の幼稚園の保育者が25であった。森の幼稚園の語りからオープン・コーディングは14,保育者は7が抽出され,それらは両者に共通する6の焦点的コーディングに分類された(Table 1)。オープン・コーディングにおいて,森の幼稚園の保育者は〈状態把握〉の語りの数が16(34.8%)と最も多く,「その子のその日の様子によって」等の語りが得られた。一般の幼稚園の保育者は〈介入抑制〉の語りの数が8(32.0%)と最も多く,「自分がそこに入ってやり取りをしたくなった時には少し我慢して」等の語りが得られた。焦点的コーディングの最も多い語りの数において,森の幼稚園の保育者は〔子どもの背景への配慮〕が16(34.8%),一般の幼稚園の保育者は〔子どもの安全管理上の配慮〕が13(52.0%)であった。
森の幼稚園の保育者は,個々の子どもの体調や心情等の背景に理解を深め,子どもの活動が円滑に促進されるよう配慮していることが考えられる。また,一般の幼稚園の保育者は,子どもの主体的な活動を尊重するために介入を控える配慮をしているが,それは活動前の約束事や保育者の居場所を明示する等の安全面の配慮による葛藤によるものであることが考えられる。
本研究の結果から主体的な子どもの活動を意識した援助には保育者は,自然環境の中で子どもの主体的な成長を育むために子ども一人ひとりを理解し把握することや保育者の介入を控えることを意識的に配慮していく必要があることが示唆された。今後は,日本の自然環境における保育者の援助にも焦点を当て研究を展開することが望まれる。
引用文献
Kiener,S.(2004).Forschungsstand über Waldkindergärten. Schweiz. Z.Forstwes. 155 .3-4: 71-76.
松石友里香・西英子(2012).デンマーク・森の幼稚園における保育環境に関する考察~森の中での保育者の役割~.日本建築学会九州支部研究報告,51,381-384.
芦田宏・秋田喜代美・鈴木正敏・門田理世・野口隆子・小田豊(2007).多声的エスノグラフィー法を用いた日独保育者の保育観の比較検討-語頻度に注目した実践知の明示化を通して-.日本教育方法学会紀要教育方法学研究,32,107-117.
名須川知子・片山知子・米津正人・上垣内伸子・田爪宏二・冨田久枝・西脇二葉・吉川はる奈(2012).「森の幼稚園」試論-北欧から学ぶわが国の幼稚園への可能性-.兵庫教育大学紀要研究,40,11-17.
佐藤郁哉(2008).質的データ分析法―原理・方法・実践.新曜社.