日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE36] バイリンガルの教科学習の個人差と指導方法

イマージョン教育を受ける中学生への半構造化面接から

今井信一 (ぐんま国際アカデミー中高等部)

キーワード:イマージョン教育, 教科学習, バイリンガル

目  的
 イマージョン教育とは,目標言語で数学科や理科などの授業を行うことで,教科の学習をしながら目標言語が習得されることを目指すバイリンガル教育である。Bostwick(1999)やDownes(2001)によって,日本で英語イマージョン教育を受ける児童は,日本の算数のテストで,日本語のみで授業を受けている児童と成績が同等であると報告された。算数ではイマージョン教育の目標の1つである児童生徒の学年や学力にふさわしい一般教科の成績を保証すること(Genesee,1983)が達成されているといえるが,その目標達成を支えた学習方法や指導方法については検討されていない。
 本研究の目的は,英語イマージョン教育を受ける中学生を対象として,日英2言語で授業が行われている教科の学習方法の特徴を明らかにして効果的な指導方法を検討することである。

方  法
調査協力者 日本で英語イマージョン教育を受ける中学3年生11名。家庭での言語使用は,日本語のみが9名,日本語と英語が2名(日本語50%英語50%;日本語80%英語20%)。海外での生活経験は,1年未満が8名,5年以上が3名。
手続き 2017年7月と12月に個別に半構造化面接を行った。調査の目的や個人情報の取り扱い,回答は任意であることを説明し,同意を得た上で録音した。面接時間は平均約26分であった。
調査内容 質問内容は,日本語と英語の習得状況の自己評価や,日英2言語で授業が行われる教科に対する意識や学習行動などである。

結果と考察
 対象者のうち,両親が日本語話者で家庭での使用言語は100%日本語で,海外での生活経験が1年未満の生徒8名の発話を分析した。日英2言語で授業が行われる数学科などの教科について,英語での授業の方が理解しやすいと述べた生徒を英語優位の生徒,日本語での授業の方が理解しやすいと述べた生徒を日本語優位の生徒とした(Table 1)。
英語優位の生徒 授業の使用言語に応じてコードスイッチングをして思考やアウトプットができている。意識的に2言語での学習を関連づける工夫をせずに授業内容を理解している。
 日本語優位の生徒 意識的に日本語での学習における理解を英語での学習に活用している。日本語での予習などの自習や,授業中の教員の指導上の工夫で,英語での授業を理解している。
 以上のことから,イマージョン教育を受ける生徒間でも,英語の習得レベルによって2言語での教科学習のされ方が異なることが明らかになった。日本人家庭に育っても英語での授業の方が理解しやすいと述べる生徒がいる一方,多くの生徒は日本語優位であった。Cummins(2007)は,生徒の第一言語を認知的・言語的リソースとして第二言語指導を行うバイリンガル指導法の重要性を述べた。日本の英語イマージョン教育での教科学習においても,教員が英語での授業中にも必要に応じて日本語で説明することや,日本語での教科学習における理解を活用できるような予習を含めた自習方法を指導することの有効性が示唆された。