日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE51] 「普通」の受け止め方を比べる

発達障害当事者と定型発達者のPAC分析から

今野博信 (学泉舎)

キーワード:ASD, こだわり, 障害理解教育

目  的
 先行する質問紙調査で,発達障害当事者と定型発達者との間に「普通」という言葉に対する受け止め方の差があることが分かった。定型発達者にはあまり気にならない「普通」が,当事者には特別な感情を呼び起こしがちで,多くはネガティブな印象を与えていた。しかし,その違和感(こだわり)の具体的な内容については,明らかにされていなかった。
 個別の聞き取り調査をおこなう必要があった。その際に,当事者には「普通」という言葉への特別な思いを問えるが,定型発達者には特別な思いがないこと聞き出す必要があった。そこで,自由連想から想起項目の相互関係を図式化し,そこからさらに質問を重ねられるPAC分析を用いることにした。
 「普通」をテーマにしたPAC分析を実施することで,当事者の感じる違和感の内容を明らかにし,定型発達者における「普通」に関する違和感の無さについても確かめることを目的とした。

方  法
 発達障害当事者4名,定型発達者4名の調査協力者を得た。性別と年代別は,当事者:男性3名(20代2名と30代1名)と女性1名20代,定型発達者:男性2名20代と女性2名60代であった。個人情報保護などを説明した。
 刺激文として次の文章を用いた。この文章を口頭で読み上げ,ノートパソコンの画面に表示させてゆっくり2回繰り返した。
 あなたは,「普通」という言葉についてどのような印象をもっていますか。何気ない会話にも,いろんな使われ方をしています。ここでは,自分のこれまでの生活を振り返ってみて,「普通」と言われて気になったことや,自分から「普通」を使って相手を困らせたことなど,なるべく具体的な場面を思い出してみてください。 
 実際に「普通」という言葉が使われた場面での印象,または自分で使ったときの感じなどで,心に浮かんだものを,そのままの順番で教えてください。聞いたままを記録していきます。
 データの収集にはPAC Helperを用い,その後のデンドログラム作図には,HADを用いた。調査時期は2017年10月から翌年2月までで,調査時間は1.5から2時間であった。

結果と考察
 当事者は,項目のポジティブとネガティブの評定が拮抗し(t=2.024, df=6, p<.05),類似度評定では,近い1や遠い7の両端の値をとることが多く見られた(χ2(3)=17.91,p<.01)。自閉傾向があると分かりやすさを好むので,二値的評定になると解釈できた。ポジティブとネガティブの併存は,当事者には強いストレスを与えるものと想像できた(Figure 1)。
 個別の語りから,当事者の「普通」には過去の具体的な場面想起(Table 1)があることが示された。A(当事者)3は,負のイメージの乗り越えを語ったが,それ以外の当事者には過去にとらわれる発言が見られた。定型発達者には,一般論的な感想や同語反復などが見られた。こうした差違を踏まえた障害理解教育の普及が望まれる。