日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE52] 内的作業モデルが共感性に与える影響

大学生の友人関係を介して

木下雅博 (甲南大学)

キーワード:内的作業モデル, 友人関係, 共感性

問題と目的
 アタッチメント関係における認知構造である内的作業モデル(以下IWM)は,先行研究において共感性に影響を与えていることが示唆されている (大浦・福井,2016;山口,2012)。一方,友人関係も共感性と関連があることが示唆されている(菊池・大坊,2009;鈴木,2004)。友人関係の構築には,他者に対する認知構造が関連しており,その認知構造は,養育者に対するIWMから派生していると考えられる。そこで,本研究では,養育者に対するIWMが,友人関係を媒介し,共感性に与える影響モデルを検討し,共感性の規定要因に関する知見を得ることを目的とする。

方  法
調査協力者・調査時期 近畿地方に存在する私立大学2校に在籍する大学生369名を対象とし2016年11月に質問紙調査を行った。このうち記入ミスのなかった350名(男性111名,女性239名;M=20.07,SD=1.20)を分析の対象とした。
調査項目 フェイスシート(性別・年齢)。養育者に対する内的作業モデル尺度(古村・村上・戸田(2016)が開発したアダルト・アタッチメント・スタイル尺度を使用)9項目,友人関係尺度 (Parker & Asher (1993) のFriendship quality questionnaireとBukowski, Hoza, & Boivin (1994) のFriendship qualities scaleを参考に作成) 20項目,共感性尺度 (鈴木・木野 (2008) の多次元性共感性尺度を参考に作成) 20項目。全て4件法で評定を求めた。

結果と考察
 内的作業モデル尺度,友人関係尺度,共感性尺度について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った(複数に因子に同程度の負荷量を示した項目を除外)。固有値の減衰状況と解釈可能性に基づき,以下の結果を抽出した。内的作業モデル尺度:親密性の回避(4項目),見捨てられ不安(3項目),α=.86~.87であった。友人関係尺度:援助(4項目),衝突(4項目),親密(2項目),α=.77~.81であった。共感性尺度:視点取得(4項目),被影響性(3項目),想像性(4項目),他者指向的反応(4項目)α=,62~.80であった。
 その後,養育者に対する内的作業モデルが,友人関係を媒介し,共感性に与える影響モデルの検討を,共分散構造分析を用いて行った(Figure 1)。その結果,養育者に対する親密性の回避は,友人関係の援助,および親密を低減していた。一方,養育者に対する見捨てられ不安は,友人関係における援助と親密を低減し,衝突を増進していた。さらに,見捨てられ不安は,直接的に共感性における被影響性を促進し,他者指向的反応を抑制していた。
 友人関係における援助は,共感性の視点取得と他者指向的反応を促進していた。また,友人関係における親密は被影響性と他者指向的反応を促進していた。一方,友人関係における衝突は,共感性に影響を与えていなかった。
 また,共感性の視点取得は,友人関係における援助からのみ影響を受けており,想像性は,養育者に対する内的作業モデル,および友人関係からの影響は受けていなかった。
 これらの結果から,養育者に対する親密性の回避,および見捨てられ不安が高い場合は,ともに友人関係を媒介して共感性を抑制することが示唆された。また,養育者に対する見捨てられ不安は,友人関係を媒介せず,直接的に共感性に影響を与えることも認められた。
 しかし,共感性の高低により,友人関係が変化することも考えられるため,今後は相互の影響を踏まえて検討していく必要があるだろう。