日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE53] 対人支援職を目指す学生の動機・志向性

小沢日美子 (同朋大学)

キーワード:教職課程, 対人支援

問  題
 近年,教育や医療・福祉の現場では,対人支援職へのニーズは高く,対人支援職の専門性が重視されてきている。対人支援とは,対人との関係において支援の必要な人を支援することである。より適切な支援のためには,支援を必要としている子どもや大人の状態の個別的支援と同時にその社会集団などの環境的支援して行くことが求められることが多い。この両者の関係について,中田(2002)は,心理的援助者が見る子どもの見方と家族の見方に相違があることを示唆している。また,発達臨床において、武藤(1993)は,これまでに積み重ねられてきた,医療・心理学・教育学など多くの近接諸領域の臨床的成果をそのどれかに従属したりあるいは包含されたりすることのできない,この領域独自の学問的枠組みと方法論の確立への現実的要請があること、そして、それに応えうる新しい体系の構築が必要とされることを論じている。つまり,対人支援とは,閉じられた関係性のなかだけで取り扱うことが難しい側面を持つ性質を含んでいるものであり,そのため対人支援職には,支援の対象との関係については,社会環境的な関心も併せもつことが期待されてきているなど,対人支援についての認識のあり方そのものが課題にされてきている。そこで,ここでは,対人支援職を目指す学生の動機・志向性を検討し,対人支援職志望者に共通する傾向,また,職種別の特色等から,対人支援職志望者の認識を向上における課題を分析・考察する。

方  法
 調査協力者:A短期大学教職課程生;養護教諭養成課程生(1,2年生)138人,保育者養成課程生(1,2年生)140人。質問紙法(4件法)。質問の内容:ここでは,(1)動機:「その職業を目指している理由」,(2)志向性:「働くときに大切にしたいこと」について検討する。※(1)の10項目は,①憧れ,②仕事内容への興味関心,③医療・福祉への興味,④評価の有無,⑤気持ちを理解し支えたい,⑥気持ちを理解するのが得意,⑦現場で働きたい,⑧心身の健康,⑨給料の安定,⑩嗜好の有無。(2)の10項目は,①コミュニケーション能力,②関係機関との連携,③責任感・冷静な判断,④愛情・優しさ,⑤困り感の理解,⑥共感・受容,⑦プライバシー保護,⑧平等な対応,⑨自己管理,⑩挨拶・礼儀。
結  果
(1)対人支援職を志望する動機:①養護教諭を目指している理由として,「子どもの気持ちを理解し支えになりたいから」が「当てはまる」と答えた学生が最も多かった(80,33%)。一方、②保育者を目指している理由としては,「保育者の仕事内容に興味・関心があったから」について,「当てはまる」と答えた学生が最も多かった(63.36%)。
(2)対人支援職への志向性:①養護教諭の職種で大切にしたいこととして,「子どもとのコミュニケーション」について,「当てはまる」と答えた学生が最も多かった(86.89%)。一方,②保育者として働くときに大切にしたいこととして「子どもへの愛情と優しさを持ちともに考えていく姿勢」について「当てはまる」と答えた学生が最も多かった (87.60%)。
(3)動機・志向性に関して:動機と嗜好性に関するそれぞれの質問項目について,動機,対人支援,社会性の観点から分類し(一致率86.2%),養護教養成課程生と保育者養成課程生について検討した所,(1)の対人支援で養護教諭が顕著に多かった。

考  察
(1)保育者を目指す理由における「保育者の仕事内容に興味・関心があったから」は,養護教諭を目指す理由,「子どもの気持ちを理解し支えになりたいから」と比べ,子どもたちとの多様な活動内容をイメージして,その仕事への動機を高めるものと考えられた。(2)養護教諭養成課程生の結果からは,その職務内容を単に手当てを施すものと捉えず,児童・生徒への保護とともに成長を促進する役割があることを積極的に意識するなど,養護と教育の両方への高い関心が示された。そして,保育者志望学生からは,愛情と優しさを持ち合わせて子どもと関わろうとする姿勢など,養育的態度の重視が示唆された。(3)の動機・社会性でも同様の傾向を示したことから,これらのことが対人支援職の特色であるとが考えられる。したがって,気持ちを積極的に理解していく姿勢,また,活動を通して愛情と優しさを伝える姿勢などが,対人支援職志望の基礎になることが考えられたが,多様な人の発達・成長にかかわる教育現場に即して,個々の発達上の課題設定,また,多面的な課題認識とその対応姿勢の養成が対人支援職を目指す課程における今後の課題と考えられた。