[PG49] 勉強に対する価値が学力や社会・将来に関する意識に及ぼす影響
キーワード:課題価値, 将来意識, 学習成果
近年,課題価値に関する研究において,個別の授業といった課題に対する価値だけではなく,複合的な学びに対する価値も注目されはじめている(e.g.,解良・中谷,2016)。松本他(2016)は,専攻学問に対する価値が,特定の授業に対する価値と同様に,興味価値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価値といった下位概念に分かれることを示した。一方,小・中学生といった教育段階においても,“勉強”,“学習”といった特定の授業に限らない価値は同様の下位概念に分類可能か確認する必要がある。また,課題価値は児童・生徒の動機づけや学習行動に有益であることが指摘されているが(e.g.,解良・中谷,2014),勉強に対する価値が実際に,学力に影響を及ぼしているかを検討する必要がある。
さらに,昨今,初等,中等教育において,将来や,社会を意識した学力の獲得に向けて,学習活動の意義や価値についての認識の重要性が指摘されていることから(中央教育審議会,2008),価値の影響を,学力に対する影響とともに検討することは意義深い。本研究は,小・中学生の,勉強に対する価値の構造の確認および,価値が学力や,将来に関する意識,社会への興味・関心と関連を示すかを探索的に検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一貫で,新たに実施した調査の対象者である,Z県在住の,小学6年生1454名,中学3年生1730名。
調査内容 (1)勉強に対する価値:中西・伊田(2006)から,課題価値に該当する16項目を,特定の教科名を“勉強”に変更した上で用いた。(2)学力代理変数:上記プロジェクトにおいて,全国学力・学習状況調査の質問紙調査項目のうち学力調査問題の正答率と関連が強い20項目(学習に対する理解度や関心など)を選出し,測定した。(3)社会に対する興味・関心:上記のプロジェクトにおいて,平成27年度項目を専門的観点から見直し,新規項目を作成した(「ニュースを見たり聞いたりして,不思議に思うことがある」等3項目)。(4)将来に関する意識:(3)と同様に,新規項目を作成した(「将来,何をしたいか具体的に考えている」等3項目)。なお,全ての項目は,全国学力・学習状況調査の項目に合わせ4件法であった。
結果と考察
勉強に対する価値について確認的因子分析を行ったところ,小・中学校ともに十分な適合度が得られた(小学生:GFI=.937,AGFI=.912,RMSEA=.069;中学生:GFI=.930,AGFI=.902,RMSEA=.075)。つまり,勉強に対する価値も,従来の特定の授業に対する価値と同様の下位尺度として解釈することが可能であることがわかった。
さらに,勉強に対する価値(興味価値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価値)を説明変数,学力代理変数,社会に対する興味関心,将来に対する意識を目的変数とした重回帰分析を行った(Table 1)。その結果,学力代理変数に対しては,小・中ともに興味価値,私的獲得価値が強く影響を及ぼしていた。興味価値および私的獲得価値は,一貫して自律的な動機づけ像を形成する要因になることを,大学生対象の調査で明らかにした伊田(2003)に整合する結果が、小・中学生においても得られた。
また,社会に対する興味・関心および将来に関する意識でも,同様に興味価値,私的獲得価値の影響が大きかった。中学生において利用価値や私的獲得価値の認知が意欲的な学習や興味を追究することが示されている(解良・中谷,2014)。勉強をすることで望ましい自分になれると認知する児童,生徒は,自分の将来像と現在の学習に対して繋がりを見いだすことができており,社会や将来に対して積極的に考えるようになったと考えられる。しかし利用価値の影響は小学生の社会に対する興味・関心に対してのみに留まった。伊田(2002)は,利用価値を見出すためには職業的目標を持つことが必要であると指摘しており,明確な職業的な目標が定まりづらいと考えられる小・中学生において利用価値の効果が弱かった可能性がある。
さらに,昨今,初等,中等教育において,将来や,社会を意識した学力の獲得に向けて,学習活動の意義や価値についての認識の重要性が指摘されていることから(中央教育審議会,2008),価値の影響を,学力に対する影響とともに検討することは意義深い。本研究は,小・中学生の,勉強に対する価値の構造の確認および,価値が学力や,将来に関する意識,社会への興味・関心と関連を示すかを探索的に検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一貫で,新たに実施した調査の対象者である,Z県在住の,小学6年生1454名,中学3年生1730名。
調査内容 (1)勉強に対する価値:中西・伊田(2006)から,課題価値に該当する16項目を,特定の教科名を“勉強”に変更した上で用いた。(2)学力代理変数:上記プロジェクトにおいて,全国学力・学習状況調査の質問紙調査項目のうち学力調査問題の正答率と関連が強い20項目(学習に対する理解度や関心など)を選出し,測定した。(3)社会に対する興味・関心:上記のプロジェクトにおいて,平成27年度項目を専門的観点から見直し,新規項目を作成した(「ニュースを見たり聞いたりして,不思議に思うことがある」等3項目)。(4)将来に関する意識:(3)と同様に,新規項目を作成した(「将来,何をしたいか具体的に考えている」等3項目)。なお,全ての項目は,全国学力・学習状況調査の項目に合わせ4件法であった。
結果と考察
勉強に対する価値について確認的因子分析を行ったところ,小・中学校ともに十分な適合度が得られた(小学生:GFI=.937,AGFI=.912,RMSEA=.069;中学生:GFI=.930,AGFI=.902,RMSEA=.075)。つまり,勉強に対する価値も,従来の特定の授業に対する価値と同様の下位尺度として解釈することが可能であることがわかった。
さらに,勉強に対する価値(興味価値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価値)を説明変数,学力代理変数,社会に対する興味関心,将来に対する意識を目的変数とした重回帰分析を行った(Table 1)。その結果,学力代理変数に対しては,小・中ともに興味価値,私的獲得価値が強く影響を及ぼしていた。興味価値および私的獲得価値は,一貫して自律的な動機づけ像を形成する要因になることを,大学生対象の調査で明らかにした伊田(2003)に整合する結果が、小・中学生においても得られた。
また,社会に対する興味・関心および将来に関する意識でも,同様に興味価値,私的獲得価値の影響が大きかった。中学生において利用価値や私的獲得価値の認知が意欲的な学習や興味を追究することが示されている(解良・中谷,2014)。勉強をすることで望ましい自分になれると認知する児童,生徒は,自分の将来像と現在の学習に対して繋がりを見いだすことができており,社会や将来に対して積極的に考えるようになったと考えられる。しかし利用価値の影響は小学生の社会に対する興味・関心に対してのみに留まった。伊田(2002)は,利用価値を見出すためには職業的目標を持つことが必要であると指摘しており,明確な職業的な目標が定まりづらいと考えられる小・中学生において利用価値の効果が弱かった可能性がある。