[PB31] 強いこだわりを持った現職教職大学院生の変容(1)
課題を深掘りするに至るまで
キーワード:校外研修、指導観、批判的思考
現職教師は,どのような経験を経て考え方を変容させ,力量を形成しているのであろうか。一般的には,失敗・挫折などの「修羅場経験」(金井, 2002),授業経験と省察(坂本, 2007)が大きい。それ以外の場として,校外での研修がある。筆者が所属する教職大学院で現職院生は,現場を離れて1年間,座学中心の学修を行う。それが現職院生の変容にどのように寄与するのか。本研究では,大きな変容が見られた事例の検討を行う。
方 法
インフォーマントは第二筆者(中学校家庭科教師,教職歴20年)。第一筆者(主担当教員)が,第二筆者の指導観の変容を感じたため,研究を開始した。研究は主にインタビュー(対面やメール)で行われ,変容の理由を協議した。(1)研究課題を深掘りし,(2)授業の見方,(3)つくり方(指導観)が変容したが,本稿では(1)を報告する。
結 果
大学院入学前は,教師主導の授業をしていた。特に消費生活領域は,「教科書とワークブックを中心とした教え込み」であり,その反省から県立総合教育センター(以下「センター」)で「消費者としての思考力・判断力・表現力等を育む学習指導の工夫―クリティカル・シンキングを取り入れた問題解決的な学習を通して」を研究した。批判的思考を入れたのは,生徒が鵜呑みにする姿が気になったからである。研究を通して,苦手な消費領域が教えやすくなり,生徒とやりとりを行いながら授業ができた。ただし話し合いに参加しない生徒も少なくなく,センターでの研究を深める(リベンジ)ために大学院に出願した。すなわちセンターでの研究テーマに強いこだわりがあった。なかでも,家庭科で重視されているがよく理解できていない「問題解決的な学習」にこだわっていた。
入学後ある教員に「早く答えを出そうと焦りすぎると,視野の狭いつまらない研究になる」と言われた。自分はセンターでの研究の続きをしに来たので関係ないと聞き流し,10月までそのテーマにこだわっていた。
11月初旬,個別指導ゼミ時に第二筆者が少し焦っていたことから,考えを整理する必要を感じ,「問題解決は目的なのか手段なのか」確認した。第二筆者はこれまでを振り返り,新単元に入るたびに前年の復習に時間をかけていることなどを思い出し,知識・技能の習得が不十分で,そのための問題解決的な学習であると確認した(深掘り)。それは特定領域に限らないことから,「中学校家庭分野における知識及び技能の習得―問題解決的な学習を通して―」と変更した(2ヶ月後には「問題解決的な学習」から「関連付けと活用」になり,教壇実習で子どもの見方や指導観が変容し,教師主導でない授業を模索し始める)。
これには布石(根っこ(道田, 2005))がある。前期,①大学院の授業がアクティブラーニングで,共感できる意見や気づかない視点が得られた。②ある授業で子どもの実態から課題や解決を考えるよう言われ,話し合い活動を活性化できていないことが意識化されたが,具体的な生徒を想起できなかった。③研究構想発表時,「消費領域だけやって思考力が育まれるの?」と問われた。④附属学校での観察実習で,「子供を個として見る」と言われ,今までにない見方で驚いた。9月以降,⑤観察実習で生徒の変化や教師と生徒のズレが見えた。⑥8月から行っている個別指導ゼミで,目先のことに囚われないなど研究の考え方について繰り返しアドバイスされた。⑦いろいろな領域で興味深い実践論文があり,こういう実践で生徒が変わるのではないかと思った。特に,試行錯誤で生徒が高まる実践に興味を持った。
これらは研究テーマと結びついておらず,10月までは当初のテーマにこだわっていたが,11月の話し合い(課題の深掘り)で大きく変容した。
考 察
変容までのプロセスは,入学前の「話し合い活動が成立しにくい」「復習が必要」という生徒の様子があり,大学院で①アクティブラーニングの有効性を実感し,②過去の実践の問題点や③自分のテーマの弱点を意識化させられ,④⑤個の姿を捉える経験をし,⑥発想が広がりやすくなるなかで,⑦文献を通して実践を広く考えられたことで,11月の変容につながったと考えられる。
これは,過去経験,院での授業や指導(内容・形態),実習経験などがバラバラに存在していたのが,11月の指導で有機的に結びつくことで,課題意識が深掘りされ,その後の指導観の変容にも繋がったといえそうである。また入学前の様子からは,生徒の姿を元に課題を深掘りすることなく批判的思考などの実践を行うことは,表面的な実践にしかならない可能性が考えられる。
付 記
本研究は科研費(16K04306)の助成を受けた。
方 法
インフォーマントは第二筆者(中学校家庭科教師,教職歴20年)。第一筆者(主担当教員)が,第二筆者の指導観の変容を感じたため,研究を開始した。研究は主にインタビュー(対面やメール)で行われ,変容の理由を協議した。(1)研究課題を深掘りし,(2)授業の見方,(3)つくり方(指導観)が変容したが,本稿では(1)を報告する。
結 果
大学院入学前は,教師主導の授業をしていた。特に消費生活領域は,「教科書とワークブックを中心とした教え込み」であり,その反省から県立総合教育センター(以下「センター」)で「消費者としての思考力・判断力・表現力等を育む学習指導の工夫―クリティカル・シンキングを取り入れた問題解決的な学習を通して」を研究した。批判的思考を入れたのは,生徒が鵜呑みにする姿が気になったからである。研究を通して,苦手な消費領域が教えやすくなり,生徒とやりとりを行いながら授業ができた。ただし話し合いに参加しない生徒も少なくなく,センターでの研究を深める(リベンジ)ために大学院に出願した。すなわちセンターでの研究テーマに強いこだわりがあった。なかでも,家庭科で重視されているがよく理解できていない「問題解決的な学習」にこだわっていた。
入学後ある教員に「早く答えを出そうと焦りすぎると,視野の狭いつまらない研究になる」と言われた。自分はセンターでの研究の続きをしに来たので関係ないと聞き流し,10月までそのテーマにこだわっていた。
11月初旬,個別指導ゼミ時に第二筆者が少し焦っていたことから,考えを整理する必要を感じ,「問題解決は目的なのか手段なのか」確認した。第二筆者はこれまでを振り返り,新単元に入るたびに前年の復習に時間をかけていることなどを思い出し,知識・技能の習得が不十分で,そのための問題解決的な学習であると確認した(深掘り)。それは特定領域に限らないことから,「中学校家庭分野における知識及び技能の習得―問題解決的な学習を通して―」と変更した(2ヶ月後には「問題解決的な学習」から「関連付けと活用」になり,教壇実習で子どもの見方や指導観が変容し,教師主導でない授業を模索し始める)。
これには布石(根っこ(道田, 2005))がある。前期,①大学院の授業がアクティブラーニングで,共感できる意見や気づかない視点が得られた。②ある授業で子どもの実態から課題や解決を考えるよう言われ,話し合い活動を活性化できていないことが意識化されたが,具体的な生徒を想起できなかった。③研究構想発表時,「消費領域だけやって思考力が育まれるの?」と問われた。④附属学校での観察実習で,「子供を個として見る」と言われ,今までにない見方で驚いた。9月以降,⑤観察実習で生徒の変化や教師と生徒のズレが見えた。⑥8月から行っている個別指導ゼミで,目先のことに囚われないなど研究の考え方について繰り返しアドバイスされた。⑦いろいろな領域で興味深い実践論文があり,こういう実践で生徒が変わるのではないかと思った。特に,試行錯誤で生徒が高まる実践に興味を持った。
これらは研究テーマと結びついておらず,10月までは当初のテーマにこだわっていたが,11月の話し合い(課題の深掘り)で大きく変容した。
考 察
変容までのプロセスは,入学前の「話し合い活動が成立しにくい」「復習が必要」という生徒の様子があり,大学院で①アクティブラーニングの有効性を実感し,②過去の実践の問題点や③自分のテーマの弱点を意識化させられ,④⑤個の姿を捉える経験をし,⑥発想が広がりやすくなるなかで,⑦文献を通して実践を広く考えられたことで,11月の変容につながったと考えられる。
これは,過去経験,院での授業や指導(内容・形態),実習経験などがバラバラに存在していたのが,11月の指導で有機的に結びつくことで,課題意識が深掘りされ,その後の指導観の変容にも繋がったといえそうである。また入学前の様子からは,生徒の姿を元に課題を深掘りすることなく批判的思考などの実践を行うことは,表面的な実践にしかならない可能性が考えられる。
付 記
本研究は科研費(16K04306)の助成を受けた。