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[R10-O-5] トラバーチン形成を制御する非生物的・生物的過程:日本の8つの温泉からの洞察
トラバーチンは温泉性の炭酸塩沈殿物であり,微生物岩や石油貯留岩のアナログとして注目されている.トラバーチン形成を制御する非生物的・生物的過程を明らかにするため,日本の8つの温泉(二股,古遠部,奥奥八九郎,入之波,木部谷,長湯,塩浸,妙見)において水化学分析,鉱物分析,微小電極測定,顕微鏡観察を行った.検討を行ったトラバーチン沈殿場にはしばしばシアノバクテリアが生息しており,それらの多くは結晶核形成に不適な非酸性EPSを持っているために高過飽和度条件であるにも関わらず石灰化しておらず,しばしば孔隙形成に寄与していた.トラバーチン表面を流れる水は,一般的に下流へ向かうCO2脱ガスによって炭酸化学平衡がシフトし,CaCO3飽和度が上昇していた.微小電極による実測からは,そのCaCO3飽和度上昇に起因して無機沈殿が起きていることが示された.しかしながら,トラバーチン表面に厚いシアノバクテリアマットを伴う試料では,水の化学組成が同じであってもより大規模な無機沈殿が起きており,これは恐らく微生物マットによる懸濁結晶のトラップによって結晶成長できる表面積が増大したためと考えられる.下流に向かうCO2脱ガスはまた,CaCO3飽和度昇に加えてCO2緩衝の低減を引き起こし,光合成誘導CaCO3沈殿に適した条件を作り出していた.しかしながら微小電極での実測では,そのような条件においても光合成誘導CaCO3沈殿の寄与は小さかった.これは光合成微生物の密度が必ずしも高くなく,また光合成による沈殿抑制も起きていることなどによるものと考えられる.本研究で検討を行った8つの温泉におけるCaCO3沈殿物形成への平均的寄与は,光合成誘導沈殿が16%,有機物の酸性官能基へのCa2+吸着が3%,非生物的沈殿が81%であり,このことはトラバーチン形成において非生物的過程が卓越していることを示している.トラバーチンの鉱物組成は,長湯温泉ではアラゴナイトのみ,木部谷温泉ではカルサイトのみ,それ以外ではアラゴナイトおよびカルサイトであった.アラゴナイトとカルサイトの相対的割合は,水のMg/Ca比や温度などよりもMg2+濃度およびSO42−濃度と強く相関しており,それらがトラバーチンにおけるCaCO3多形をコントロールする重要な要因であることが示唆される.