日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

[1ch301-08] R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

2021年9月4日(土) 09:00 〜 11:45 第3 (第3)

座長:大橋 聖和、岡本 敦、向吉 秀樹、岡崎 啓史

11:30 〜 11:45

[R12-O-8] スラブマントル条件下におけるアンチゴライト蛇紋岩の変形促進脱水反応

奥出 桜子1、*清水 以知子1、緒方 夢顕1 (1. 京都大学)

キーワード:蛇紋岩、脱水反応、沈み込むスラブ、中深発地震、高温高圧変形実験

沈み込み帯で起こるやや深発地震は、マントルスラブ内の蛇紋岩が脱水反応温度(〜650℃) に達する深さで頻発しているという指摘があり、その発生メカニズムとして間隙圧上昇による脱水脆性化が議論されてきた。そこで、脱水脆性化説を実験的に検証するために様々な研究が行われてきたが、実験の温度圧力条件や、用いる蛇紋岩の構成鉱物や組織の多様性などにより異なる力学挙動が報告されている。本研究では、スラブマントルに存在すると考えられるアンチゴライト蛇紋岩をもちいて、深さ60 km のやや深発地震の発生域を含む温度圧力条件下で、蛇紋岩の力学特性を調べるために変形実験をおこなった。 実験試料として、長崎変成帯のアンチゴライト蛇紋岩を選定した。本蛇紋岩は均質、等方的でアンチゴライトに富むが、一部低温型蛇紋石を含むことがラマン分光マッピングにより新たにわかった。試料は、直径8 mm、高さ約14 mm の円柱に成形して用いた。実験は固体圧式試験機を用いて封圧0.6–1.7 GPa の範囲でおこなった。蛇紋岩の脱水前と脱水後の挙動を比較するために, 温度は500℃ と700℃ でおこない、歪速度一定(3.3×10-5sec-1)の軸圧縮試験を行った。 500℃、1.2 GPa でおこなった実験では、試料は完全に降伏せず歪硬化が続いた。実験後の試料には脱水反応はみられず、試料を貫く共役断層による変形がみられた。一方、700℃で封圧を変えた3つの実験では、ある差応力で降伏し、最後は定常クリープ的に変形した。最終的な強度(差応力)は0.5–1.2 GPa となった。力学データでは延性を示したが、回収試料には、試料を貫く断層破壊のほか微小断層による分散した変形が見られたため、準脆性的に変形をしたということができる。また、700℃ でおこなった実験回収試料の走査型電子顕微鏡による観察では断層に沿って繊維状のカンラン石(フォルステライト)が集中して生成していた。また、700℃ ,1.7 GPa の実験回収試料には、断層剪断帯に輝石(エンスタタイト)や赤鉄鉱も生成していることがラマン分光マッピングで確認された。断層の形成や剪断変形が脱水反応を促進したと考えられる。さらに同じ条件で行った検証実験では,試料は明瞭な降伏を示さず歪硬化がつづき,反応の進行も抑制されていた。 本実験では、大きな応力降下を引きおこすような脱水脆性化ではなく、準脆性的に変形し強度が低下する挙動(ここでは脱水軟化とよぶ)が見られた。本研究でみられたような断層変形による反応促進により、実際のスラブマントル中でもこのような脱水軟化が起きている可能性がある。やや深発地震のメカニズムとしては、蛇紋岩の脱水反応と変形により、周囲のカンラン岩に破壊が生じることが考えられる。