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[R3-O-2] 大規模山体崩壊のマグマ供給系への影響―渡島大島火山海陸統合調査―
キーワード:島弧火山、山体崩壊、渡島大島、マグマ供給系、海底調査
[目的] 地球上には,大規模な山体崩壊を繰り返し引き起こしながら成長していく火山が多く存在している .日本国内にもこれまで大規模な山体崩壊を起こした火山が多く存在する.とくに1640年北海道駒ケ岳,1741年渡島大島,1792年雲仙眉山では多くの犠牲者が出たが,これは大量の火山砕屑物が海へ流入して津波が発生し,甚大な災害に発展したためである.このように海に囲まれた日本の火山では山体崩壊が大きな災害の要因になりうるが,崩壊メカニズムや火山活動との関係については不明な点も多い. 山体崩壊の原因とトリガーについてはこれまで多くの研究がなされてきたが,山体崩壊が起きることによるその後のマグマ,噴火活動への影響については理解が遅れている.本研究では,1741年に大規模山体崩壊を起こした渡島大島火山について,陸上および海底に分布する山体崩壊前後の火山噴出物,堆積物調査と室内分析を基にこのテーマに取り組む. [渡島大島火山] 北海道西方の日本海に位置する渡島大島火山は,東北日本弧の最も背弧側に位置する活動的火山である.渡島大島火山では,1741-42年の噴火の際,北側斜面で山体崩壊を起こし,山頂部には馬蹄形のカルデラ地形と中央火口丘(寛保岳)が形成された.このため,寛保岳周辺や,山頂カルデラ縁等において,山体崩壊イベント前後の火山噴出物が採取できることが期待される.これら地域での露頭の調査により,火山体崩壊イベント前後のマグマ組成変化の検出を試みるため,火山体崩壊前後の火山噴出物及び14C年代測定用試料を採取した.またより長期の変動を確認する目的でカルデラ壁に露出する溶岩の採取も行った. [海底調査] 渡島大島北側の海底斜面には流れ山地形が見られ,加藤(1997)によるしんかい2000による潜航調査により,崩壊堆積物が存在していることが確認された.また周囲を海に囲まれていることから,周辺海底に火山噴出物の良好な連続記録の保存が期待できる.2020年8月実施の学術研究船「白鳳丸」KH-20-7航海では,渡島大島周辺海底を調査対象とし,1)渡島大島火山の山体崩壊由来の堆積物の構造,厚さ,分布範囲を明らかにするための反射法音波探査とサブボトムプロファイラによる浅部構造探査(本学会,有元ほかの発表を参照),2)火山灰および山体崩壊に関連した堆積物コアの採取,3)流れ山の由来あるいは側火山噴出物の特徴を解明するためのドレッジによる岩石試料採取及び海底撮影,4)山体崩壊堆積物の分布や堆積状況を明らかにするための海底地形調査,5)火山体とその基盤の構造を理解するための重磁力調査,を実施した. [予察的結果] 渡島大島山頂部の複数地点の露頭から採取した主に1741年以降の噴出物の層序と岩石学的,化学的特徴から1)1741-42年噴火の経過を反映して,主成分,微量成分組成ともに明瞭かつ系統的な時間変化を示す.2)一連の噴出物は大部分が玄武岩質マグマの活動によるものだが,2層準に安山岩質噴出物を含む.この噴出物の組成変化は,古文書の記載“白灰黒砂降る”に相当するのではないかと考えられる.3)1741年の津波を引き起こした山体崩壊は,2)で記した安山岩噴出物のうち,上位のものが噴出した後で発生した可能性が高い.4)明らかになった化学組成変化は,同一マグマの結晶分化作用では説明できない.5)特に大きな組成変化が山体崩壊前に噴出したと考えられる安山岩質噴出物の活動の前後で起きた.6) 中央火口丘等山体崩壊後の噴出物に安山岩質のものはなく,これらの噴出物を覆う安山岩質噴出物も認めていない.7)山体崩壊後の火山噴出物中の化学組成範囲は,結晶分化作用のみで説明できない,ことが明らかになった. これらの結果は,渡島大島火山のマグマ組成が1741-2年の噴火活動の中で時間の経過とともに変化したが,その変化の中には山体崩壊に関連すると考えられる短時間で非常に大きな変化と,徐々に系統的に変化していくものと2種類あることを示唆する.今後海底で採取された噴出物との対比を進め,山体崩壊前後のマグマ供給系の時間変化の詳細を明らかにしたい. 引用文献:加藤 幸弘(1997)JAMSTEC J. Deep Res., 13, 659-667.