日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-2.ジェネラル サブセッション第四紀地質

[1oral501-07] G1-2.ジェネラル サブセッション第四紀地質

2022年9月4日(日) 09:00 〜 10:45 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:渡辺 正巳(文化財調査コンサルタント株式会社)、竹下 欣宏(信州大学)、三田村 宗樹(大阪公立大学)、長橋 良隆(福島大学)

10:30 〜 10:45

[G2-O-7] 2021年熱海土石流災害の発生原因の究明のための地球科学的研究

*北村 晃寿1 (1. 静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻・防災総合センター)

キーワード:熱海土石流災害、盛土

2021年7月3日に,静岡県熱海市逢初川の源頭部(標高390 m,海岸から2 ㎞上流)にあった約56,000 m3の盛土のうちの約55,500m3が崩壊して発生した土石流は,死者・行方不明者28人,全・半壊家屋64棟の被害を出した.同様の盛土崩壊は周辺地域では起きていないので,逢初川源頭部の盛土は災害危険性が最大であったこととなる.よって,この盛土の性状の調査は,今年5月27日に公布された「盛土規制法」の実効性の確保と既存の盛土の災害危険性の評価基準の策定に必須の情報を提供する.そこで,著者は共同研究者とともに,静岡県と熱海市の協力の下で,盛土・土石流堆積物の地球科学的研究を行い,次の知見を得た.
 (1)盛土最下端の基底部は含礫砂層(0.1m厚)と亜円礫層(0.4m厚)の累重からなる露頭を発見した.前者の礫は火山岩の角礫である.後者の礫は堆積岩の亜円礫で,礫支持であり,礫間の砂質堆積物は放散虫化石を含む泥岩岩片と有孔虫を含むので,供給源の一部は沿岸堆積物である(北村・山下・本山・中西・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).また,砂質堆積物の含泥率は10%程度なので,亜円礫層の透水性は高いと推定される.
  (2)盛土最下端から約350 m下流の堰堤を埋めた土石流堆積物から海綿骨針を含む泥岩岩片を発見した(北村・矢永・岡嵜・片桐・中西・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).泥岩岩片の産出は,堰堤を埋めた土石流堆積物の供給源が亜円礫層の可能性のあることを示唆し,言い換えると,盛土崩壊の初期の土石流が盛土最下端に由来する可能性を示唆する.
 (3)盛土には褐色の土砂と黒色の土砂があり,前者は熱海周辺の岩体に由来すると考えて良く,一方,後者は現世~中期完新世の沿岸性貝類や古生代末期~中生代の放散虫化石を含むチャート岩片を産するので,供給源の一部は沿岸堆積物や中部完新統海成層で,また後背地にはチャートが分布する(北村, 2022, 第四紀研究, 61; 北村・岡嵜・近藤・渡邊・中西・堀・池田・市村・中川・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).これらの粒子組成から盛土の採集地を特定できれば,盛土の力学的性質の推定に最も確実な制約を与える「採集地に残された土砂の土質力学的性質」の情報を得ることができる.