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[T11-O-27] 北中国のカンブリア系上部で見られる海綿が関与した微生物岩に類似した岩石
キーワード:海綿、カンブリア系上部、北中国、排碧階、微生物岩
カンブリア紀後期の芙蓉世(Furongian)は“カンブリア爆発”とオルドビス紀の生物大放散(GOBE)に挟まれ,生物の多様性が見かけ上低い時期に相当する.その初期段階(排碧期)には,有機炭素の埋没率の増加や無酸素水塊の発達に起因するSPICE事変(炭素同位体比の正の偏位)が生じている.本発表では,北中国のカンブリア系上部で形成され微生物岩に酷似する岩石の特性を紹介する.
北中国の山東省には,炒米店層で代表される芙蓉統(排碧階から第十階)の地層が広く分布している.下位のGushan層(古丈階)は,頁岩や石灰質扁平礫岩で特徴付けられるが,炒米店層の下部ではストロマトライトに酷似した堆積岩からなる礁が顕著である.石灰質扁平礫岩がそれらの礁の基盤になっている場合が多い.露頭やスラブレベルの観察では,典型的な柱状ストロマトライト様の堆積岩の他に,複雑に分岐する微生物岩様やドーム状ストロマトライト様・スロンボライト様の堆積岩が認められる.炒米店層の上部では三葉虫,棘皮動物,腕足類,頭足類の生砕片からなるグレインストンが発達する.ワッケストンでは生物擾乱作用が顕著である.ストロマトライト様の堆積岩のコラム部は選択的にドロマイト化作用を被っているが,ラミナ組織が識別される場合が多い.石灰質微生物類はまれで,わずかにGirvanellaが認められる.ストロマトライト様のコラム内や,コラム間で,骨針を欠くバーミフォーム状の海綿組織が主体の岩石(keratolite: Lee and Riding, 2021)が頻繁に認められる.海綿組織がコラム部をまたぐように側方に分布する場合もある.海綿本体の外形は不明瞭である.海綿組織の周辺でミクライトの集積やスパーセメントの充填を伴うことが多い.keratoliteは,石灰質微生物類(Epiphytonなど)や大型骨格生物(lithistid海綿:Rankenellaやサンゴ類:Cambroctoconus)が豊富な下位層の張夏層(鳥溜期後期〜古丈期前期)でも認められるが,そこでの産出頻度は高くない.
従来,カンブリア系上部から下部オルドビス系には,“複雑に分岐するスロンボライト”(“maceriate thrombolite”)が汎世界的に分布すると考えられていた(Shapiro and Awramic, 2006).ごく最近,「keratose海綿–微生物コンソーシアム(keratose sponge–microbial consortium)」で,海綿と微生物類が協働し合い,純粋なストロマトライトに見かけ上類似したkeratoliteを形成することが報告されている(Lee and Riding, 2021).keratoliteは,低酸素環境が想定されるペルム紀末の大量絶滅層準直上の最下部トリアス系からも多産する(Wu et al., 2022).骨格生物礁の発達が抑制されていたと考えられていたカンブリア紀後期には,広域的にkeratoliteが形成されていた可能性が高い.keratoliteが卓越したのは,keratose海綿の耐性が強く,無酸素水塊の発達などの環境下でも当該の海綿は排他的に生存し得たことを示している.今後,海綿自体や海綿と共存する微生物類が,どのような相互作用を通じてストロマトライトに類似した堆積岩を形成するのかを明らかにしていく必要がある.
[引用文献]
・Lee, J.H. and Riding, R. (2021) Keratolite–stromatolite consortia mimic domical and branched columnar stromatolites. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 571, 110288.
・Shapiro, R.A. and Awramik, S.M. (2006) Favosamaceria cooperi new group and form: A widely dispersed, time-restricted thrombolite. Journal of Paleontology, 80, 411-422.
・Wu, S., Chen, Z.Q., Su, C., Fang, Y., and Yang, H. (2022) Keratose sponge fabrics from the lowermost Triassic microbialites in South China: Geobiologic features and Phanerozoic evolution. Global and Planetary Change, 211, 103787.
北中国の山東省には,炒米店層で代表される芙蓉統(排碧階から第十階)の地層が広く分布している.下位のGushan層(古丈階)は,頁岩や石灰質扁平礫岩で特徴付けられるが,炒米店層の下部ではストロマトライトに酷似した堆積岩からなる礁が顕著である.石灰質扁平礫岩がそれらの礁の基盤になっている場合が多い.露頭やスラブレベルの観察では,典型的な柱状ストロマトライト様の堆積岩の他に,複雑に分岐する微生物岩様やドーム状ストロマトライト様・スロンボライト様の堆積岩が認められる.炒米店層の上部では三葉虫,棘皮動物,腕足類,頭足類の生砕片からなるグレインストンが発達する.ワッケストンでは生物擾乱作用が顕著である.ストロマトライト様の堆積岩のコラム部は選択的にドロマイト化作用を被っているが,ラミナ組織が識別される場合が多い.石灰質微生物類はまれで,わずかにGirvanellaが認められる.ストロマトライト様のコラム内や,コラム間で,骨針を欠くバーミフォーム状の海綿組織が主体の岩石(keratolite: Lee and Riding, 2021)が頻繁に認められる.海綿組織がコラム部をまたぐように側方に分布する場合もある.海綿本体の外形は不明瞭である.海綿組織の周辺でミクライトの集積やスパーセメントの充填を伴うことが多い.keratoliteは,石灰質微生物類(Epiphytonなど)や大型骨格生物(lithistid海綿:Rankenellaやサンゴ類:Cambroctoconus)が豊富な下位層の張夏層(鳥溜期後期〜古丈期前期)でも認められるが,そこでの産出頻度は高くない.
従来,カンブリア系上部から下部オルドビス系には,“複雑に分岐するスロンボライト”(“maceriate thrombolite”)が汎世界的に分布すると考えられていた(Shapiro and Awramic, 2006).ごく最近,「keratose海綿–微生物コンソーシアム(keratose sponge–microbial consortium)」で,海綿と微生物類が協働し合い,純粋なストロマトライトに見かけ上類似したkeratoliteを形成することが報告されている(Lee and Riding, 2021).keratoliteは,低酸素環境が想定されるペルム紀末の大量絶滅層準直上の最下部トリアス系からも多産する(Wu et al., 2022).骨格生物礁の発達が抑制されていたと考えられていたカンブリア紀後期には,広域的にkeratoliteが形成されていた可能性が高い.keratoliteが卓越したのは,keratose海綿の耐性が強く,無酸素水塊の発達などの環境下でも当該の海綿は排他的に生存し得たことを示している.今後,海綿自体や海綿と共存する微生物類が,どのような相互作用を通じてストロマトライトに類似した堆積岩を形成するのかを明らかにしていく必要がある.
[引用文献]
・Lee, J.H. and Riding, R. (2021) Keratolite–stromatolite consortia mimic domical and branched columnar stromatolites. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 571, 110288.
・Shapiro, R.A. and Awramik, S.M. (2006) Favosamaceria cooperi new group and form: A widely dispersed, time-restricted thrombolite. Journal of Paleontology, 80, 411-422.
・Wu, S., Chen, Z.Q., Su, C., Fang, Y., and Yang, H. (2022) Keratose sponge fabrics from the lowermost Triassic microbialites in South China: Geobiologic features and Phanerozoic evolution. Global and Planetary Change, 211, 103787.