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[G5-O-6] 西九州古第三系基底層再検討の必要性
キーワード:古第三紀、始新世、マーストリヒト階、恐竜、九州、赤崎層、中甑層、呼子ノ瀬層、香焼層、三ツ瀬層
九州の北部および西部では,夾炭層の探索に伴って1920年代に当地の古第三系層序の概要が明らかとなった.初期の層序学的枠組みはいくつか改定を経て引き継がれ,現在においても踏襲されるものとなっている.岩相層序と産出する軟体動物化石は,当地の古第三系の地域間層序対比に貢献し,1990年代以降にはナノ化石層序も加わることで対比の解像度が高まった.近年では,ジルコン粒子のU–Pb年代測定によりさらに対比の精度を高め,層序と年代の検証に役立つ報告もある.しかし,九州の古第三系は未だ年代の充分なデータは揃っていない.本報告では,西九州の古第三系基底部に着目し,過去に提唱された層序学的枠組みは見直す必要性があることを紹介する.
九州西部(熊本県西部,長崎県中南部,および鹿児島県北西部)では,古第三系基底部として赤色岩を伴う陸成層が広く分布し,長尾(1922, 1926: 共に地質雑)においては赤崎層,松下(1949: 九州大理研報)においては赤崎層群と呼ばれた.これら赤色岩を伴う陸成層には,多くの地域でその上位に中期始新世の軟体動物化石などを含む海成層が累重する.北は長崎県西海市寺島の赤崎層群呼子ノ瀬層,その南に長崎市高島炭田の赤崎層群香焼層,さらに南方は熊本県西部と鹿児島県北西部の天草地域に広がる弥勒層群赤崎層,最も南は薩摩川内市甑島列島の上甑島層群中甑層(井上ほか, 1979: 地調月報)が古第三系基底部の赤色岩を伴う陸成層である.熊本県の北方にはその延長となる赤崎層群銀水層や山ノ神層もあるが,天草下島には分布がない.これら陸成層は化石に乏しいが,弥勒層群赤崎層と中甑層は共にその上限付近に約50 Maの前期始新世後期の凝灰岩を挟在し(Miyake et al., 2016: Paleont. Res.; 宮田ほか, 2018: 日本地質学要旨),始新世の哺乳類化石の報告もある(Miyata et al., 2011: Vertebr. PalAsia.など).最近,天草市御所浦町横浦島の赤崎層においては,その基底付近から大型の裂歯類化石の産出が報告され(宮田, 2022: 御所浦白亜館報),赤崎層の堆積年代の下限は前期始新世後期と見られる.山下ほか(2020: 日本地質学西日本要旨)は,中甑層の古地磁気データからその堆積年代を前期始新世の約50~52 Maと推定した.だが,ほかの基底層は依然としてその年代が明確でないうえ,疑義のある事実も明らかになった.
最近,呼子ノ瀬層は上部白亜系であることが恐竜化石の産出と凝灰岩の年代測定(宮田ほか, 2022: 日本古生物学要旨)により明らかとなった.その上位の寺島層群寺島層と共に,呼子ノ瀬層からはそれまで化石の報告は無いが,白亜紀のハドロサウルス上科鳥脚類(恐竜)のデンタルバッテリーの一部(5 本の歯が並ぶ右歯骨歯)と,別個体の恐竜と考えられる大きな骨(椎体と骨盤)が呼子ノ瀬層から発見された.呼子ノ瀬層に挟在する酸性凝灰岩の最若クラスターの加重平均年代値は66.90 ± 0.97 Maであり(宮田ほか, 2022: 同上),呼子ノ瀬層はマーストリヒト階最上部と考えられる.寺島層が上部白亜系かは明らかでない.すなわち,長崎半島西海岸の上部白亜系三ツ瀬層(カンパニアン)には関係しない白亜系(呼子ノ瀬層)が存在し,岩相上,上に述べた古第三系基底の赤色岩を伴う陸成層に似る.呼子ノ瀬層は高島炭田の赤崎層群香焼層と対比されてきた.香焼層の上限付近からは,中期始新世と考えられる浅海ないし汽水棲の軟体動物化石産出の既報があるが(Mizuno, 1964: Rep. Geol. Surv. Japan),下位の上部白亜系三ツ瀬層と香焼層の境界は岩相上の類似から不明とされ,香焼層からほかに古第三系として確証づける証拠は未だない.長崎市の岳路にある三ツ瀬層とされた堆積岩からは,約52Maの前期始新世を示唆する砕屑性ジルコン年代が報告されているが(長田ほか, 2014: 日本地質学要旨),これが関連するかは不明である.以上のように,長崎県の古第三系基底層は判然としないうえ,松下の提唱した赤崎層群は見直しと改定が必要となっている.
九州西部(熊本県西部,長崎県中南部,および鹿児島県北西部)では,古第三系基底部として赤色岩を伴う陸成層が広く分布し,長尾(1922, 1926: 共に地質雑)においては赤崎層,松下(1949: 九州大理研報)においては赤崎層群と呼ばれた.これら赤色岩を伴う陸成層には,多くの地域でその上位に中期始新世の軟体動物化石などを含む海成層が累重する.北は長崎県西海市寺島の赤崎層群呼子ノ瀬層,その南に長崎市高島炭田の赤崎層群香焼層,さらに南方は熊本県西部と鹿児島県北西部の天草地域に広がる弥勒層群赤崎層,最も南は薩摩川内市甑島列島の上甑島層群中甑層(井上ほか, 1979: 地調月報)が古第三系基底部の赤色岩を伴う陸成層である.熊本県の北方にはその延長となる赤崎層群銀水層や山ノ神層もあるが,天草下島には分布がない.これら陸成層は化石に乏しいが,弥勒層群赤崎層と中甑層は共にその上限付近に約50 Maの前期始新世後期の凝灰岩を挟在し(Miyake et al., 2016: Paleont. Res.; 宮田ほか, 2018: 日本地質学要旨),始新世の哺乳類化石の報告もある(Miyata et al., 2011: Vertebr. PalAsia.など).最近,天草市御所浦町横浦島の赤崎層においては,その基底付近から大型の裂歯類化石の産出が報告され(宮田, 2022: 御所浦白亜館報),赤崎層の堆積年代の下限は前期始新世後期と見られる.山下ほか(2020: 日本地質学西日本要旨)は,中甑層の古地磁気データからその堆積年代を前期始新世の約50~52 Maと推定した.だが,ほかの基底層は依然としてその年代が明確でないうえ,疑義のある事実も明らかになった.
最近,呼子ノ瀬層は上部白亜系であることが恐竜化石の産出と凝灰岩の年代測定(宮田ほか, 2022: 日本古生物学要旨)により明らかとなった.その上位の寺島層群寺島層と共に,呼子ノ瀬層からはそれまで化石の報告は無いが,白亜紀のハドロサウルス上科鳥脚類(恐竜)のデンタルバッテリーの一部(5 本の歯が並ぶ右歯骨歯)と,別個体の恐竜と考えられる大きな骨(椎体と骨盤)が呼子ノ瀬層から発見された.呼子ノ瀬層に挟在する酸性凝灰岩の最若クラスターの加重平均年代値は66.90 ± 0.97 Maであり(宮田ほか, 2022: 同上),呼子ノ瀬層はマーストリヒト階最上部と考えられる.寺島層が上部白亜系かは明らかでない.すなわち,長崎半島西海岸の上部白亜系三ツ瀬層(カンパニアン)には関係しない白亜系(呼子ノ瀬層)が存在し,岩相上,上に述べた古第三系基底の赤色岩を伴う陸成層に似る.呼子ノ瀬層は高島炭田の赤崎層群香焼層と対比されてきた.香焼層の上限付近からは,中期始新世と考えられる浅海ないし汽水棲の軟体動物化石産出の既報があるが(Mizuno, 1964: Rep. Geol. Surv. Japan),下位の上部白亜系三ツ瀬層と香焼層の境界は岩相上の類似から不明とされ,香焼層からほかに古第三系として確証づける証拠は未だない.長崎市の岳路にある三ツ瀬層とされた堆積岩からは,約52Maの前期始新世を示唆する砕屑性ジルコン年代が報告されているが(長田ほか, 2014: 日本地質学要旨),これが関連するかは不明である.以上のように,長崎県の古第三系基底層は判然としないうえ,松下の提唱した赤崎層群は見直しと改定が必要となっている.