日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

[3oral101-07] G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

2022年9月6日(火) 10:00 〜 12:00 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:三澤 文慶(産業技術総合研究所)

10:15 〜 10:30

[G7-O-2] 内湾から採取された海洋コアの人新世における重金属および有機物分析による底質環境変化の解析
―高知県浦ノ内湾を研究例としてー

*村山 雅史1,2、神徳 理紗5、新井 和乃2、原田 尚美3,4 (1. 高知大学農林海洋科学部、2. 高知大学海洋コア総合研究センター、3. 海洋研究開発機構 地球環境部門、4. 東京大学大気海洋研究所、5. 高知大学総合人間自然科学研究科)

キーワード:人新世、重金属、有機物、内湾、海洋コア

内湾は、自然による環境変化や人間活動による環境変化を詳細に記録している場所である。特に、産業革命以降、人間が地球環境に負荷を与えてきた記録が残されており、新たに「人新世(Anthropocene)」とよばれる地質年代が提唱されている(Crutzen and Stoermer, 2000)。海底堆積物から、東京湾(陶ほか, 1981)や大阪湾(陶ほか, 1983)、伊勢湾(陶ほか, 1982)などの大都市や工業地帯周辺での解析が報告され、その概要は報告されている。しかしながら、「人新世」付近の人為的な影響がある時代をより連続で分析している研究例は少ない。そこで、本研究では、工業地帯の影響が少ない、地方の高知県中央部に位置する浦ノ内湾の海底堆積物中に記録されている人新世を挟んだ時代の環境変動について検証することを目的とする。重金属の濃度と有機物の濃度や組成変化を調べた。浦ノ内湾は湾口が狭く、東西に12kmの細長い地形を持つ沈降性の内湾であり、連続的な海底コア試料が採取された。
 浦ノ内湾の海底表層堆積物は、湾奥と湾央で、潜水士によって直接パイプを直接押し込み、各地点2本ずつコア試料を採取した。これらは、X-CT、MSCL測定を行い、半割後、digital image, XRF core scanner (ITRAX)をもちいて元素組成分析を行った。また、1㎝間隔で深さ方向に切りわけた後、冷凍保存し、凍結真空乾燥を行い、粉末状にして、EA-IRMSによる有機物分析とγ線スペクトル分析装置をもちいた年代測定をおこなった。
湾奥(U-1)と湾央(U-3)の堆積物は、シルト質軟泥であり貝化石を多く含む。コア上部には貝殻片が少なくヘドロが堆積していた。湾奥(U-1)では、重金属元素(Cu, Zn, Ni, Pb, Cd, Cr)が、コア表層より約18cm(1964年)付近から増加し、湾央(U-3)では、コア表層より約36.5cm(1954年以前)付近から増加が見られた。重金属元素は、第二次世界大戦以降、約2倍近く増加していた。また、酸化還元の指標となるMnは、湾奥では約14cm(推定1977年)から減少、湾央では約34cm(1954年)から減少しており、この頃から海底環境が還元的になったと考えられる。海起源有機炭素の指標となるBrは、湾奥では約25cm(1953年)から増加、湾央では約45cm(1922年以前)から増加しており、植物プランクトン由来のそれらが増加したことが推定できる。さらに、有機炭素量(TOC)とC/N比は、湾奥では約25cmから増加、湾央では約45cmから増加しており、それに伴い安定同位体比(δ13Corg., δ15Norg.)も変化した。この時期から養殖がおこなわれており、人為的な影響が大きいと考えられる。湾奥(U-1、水深9.7 m)と湾央(U-3、水深19 m)を比較すると、平均堆積速度は2倍異なるため、海底地形や海盆面積にともなう堆積量の違いから、重金属元素や有機物の変化の開始時期が異なったと考えられる。

引用文献:
陶正史,峯正之,岩本孝ニ,当重弘,東京湾海底堆積物の重金麗汚染,水路部研究報告第16号, 1981.
陶正史,柴山信行,峯 正之,岩本孝二,当重弘,松本敬三,稲積忍,伊勢湾海底堆積物の重金属汚染,水路部研究報告第17号, 1982.
陶正史,柴山信行,峯 正之,岩本孝二,当重弘,松本敬三,大阪湾海底堆積物の重金属汚染,水路部研究報告第18号, 1983.
Crutzen and Stoermer, The ‘Anthropocene’,A New Epoch in Earth’s History,edited by Paul J. Crutzen and the Anthropocene, pp 19–21, 2000.