一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター2

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-7] 脳血管障害後の送り込み障害に対して舌接触補助床を適用が有効であった症例

○重本 心平1、堀 一浩2 (1. 会津中央病院 歯科口腔外科、2. 新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野)

【緒言・目的】脳血管障害や舌癌術後など,舌の機能的あるいは器質的障害により発音・咀嚼・嚥下障害が生じた場合,上顎に接触補助床が適応される場合がある。今回,脳血管障害後の高齢患者に PAP を適応し良好な結果が得られたため,その概要を報告する。
【症例および経過】71 歳,女性。既往歴として左被殻出血術後,右半身麻痺を認めたが,ADL はほぼ自立していた。今回,自宅で転倒し右大腿骨転子部骨折のため当院外傷再建外科に入院し手術を施行した。術後 4 日目に右上下肢麻痺の憎悪と舌運動機能不良が出現し意識障害となった。精査の結果,症候性てんかんによる症状と判断され絶食となり NST 介入となった。1 週間後,食事再開を目的として,当科に嚥下評価依頼があり,初診日に嚥下内視鏡検査を施行した。その結果,送り込み障害があり嚥下反射惹起遅延があるも明らかな誤嚥所見はなく,直接訓練から開始した。その後,ペースト食から食事開始したが,送り込み障害のため,摂取量が増えず,入院 56 日目に胃瘻造設となった。67 日目に意識レベルが改善してきたため,義歯修理(右側上顎 67 部増歯)を行った。この段階で ADL ランクは B2,Alb は 3.0 g/dlであった。79 日目にはパラトグラムを用いて PAP に形態を修正し,入院 92 日目に VF 検査を行ったところ,義歯なしでは口腔通過時間 48 秒であったが,PAP を付与した義歯を装着すると口腔通過時間は9 秒と送り込み障害が改善した。また,ADL は B2,Alb は 4.1g/dl となり,入院 93 日目に当院関連施設に退院した。退院 6 日目に昼のみ一品食 21 日目に昼のみペースト食開始し,26 日目には 3 食に移行し現在はペースト食で全量摂取できており,胃瘻抜去検討中である。本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
本症例は,30 年前の比較的広い範囲の左被殻出血により,日常生活はぎりぎり ADL 自立を保てるような状況であった。しかし,今回の症候性てんかんをきっかけに右上下肢麻痺の憎悪と舌運動機能不良が出現し意識障害となり,ADL が低下したと考えられる。口腔機能に関しては,従命動作が難しく舌圧測定はできなかったが,舌機能低下により舌と口蓋との接触が得られなくなり,送り込み障害が出現したと考えられ,PAP が有効であった。経口摂取が再開されるまでの期間,胃瘻により栄養状態が改善されたことも摂食嚥下リハビリテーションがすすんだ一因と考えられた。(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)