一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター2

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-9] 統合失調症,精神遅滞を伴う未治療口蓋裂患者に対し,鼻咽腔閉鎖機能を有する義歯により機能障害が改善した症例

○西澤 光弘1、寺中 智2 (1. 医療法人群栄会田中病院 歯科、2. 足利赤十字病院 リハビリテーション科)

【緒言・目的】
 わが国において口蓋裂は新生児約 500~700 人に 1 人の割合で発生するとされ,最も頻度の高い先天 性外表形態異常のひとつである。主に発語や摂食に機能障害を生じるが,適切な時期に適切な治療を受ければ通常の生活を送ることが出来る。今回は生活が苦しく口蓋裂を治療する機会がなかったが,歯科受診をきっかけに義歯を作製したことにより機能障害が改善し,さらに鼻咽腔閉鎖機能を改良した新義歯によってQOLが向上した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 76歳,女性。統合失調症,軽度認知症,軽度精神遅滞にて約7年前に当院老人施設に入所した。口腔内所見は残存歯計8歯(上顎3歯、下顎5歯)で,右上2相当部から軟口蓋部へ繋がった裂溝を認めた。また中耳炎などの耳の症状は認めなかった。患者は口蓋裂を意識せず生活していたが,欠損歯数が増加したため義歯作製を希望して当歯科受診した。年齢的に口蓋裂の根本的治療よりも義歯により口蓋裂を封鎖して発語や摂食障害を改善することが望ましいと考え,数年前に初めて義歯を作製し問題なく使用していた。その義歯が不適合となり新製するにあたって旧義歯より後縁を2~6mm延長し封鎖域を拡大した。鼻咽腔閉鎖機能を高めたことにより鼻息鏡を使用したブローイングテストで旧義歯より最大8mm,義歯未装着時より最大13mm鼻漏出が減少するとともに発語はサやタなどで改善し,フードテストでは口蓋裂への食物の侵入をより防ぐことが認められた。義歯に慣れるにつれて更に発語が改善し,発語テストで「テレビ」は「tyelehi」から「telebi」と発語できるようになった。
 なお,本発表に際し患者本人から文書による同意を得た。
【考察】
 生活水準などの理由で口蓋裂を未治療のまま過ごしている高齢者がおり,そのような患者にもスピーチエイドの役割を付与した義歯により発語や摂食障害が改善できることがわかった。本症例では新義歯は旧義歯より口蓋裂の封鎖域を広くとるため義歯の後縁を延長・拡大し鼻漏出や逆流を防ぐことを意図して作製し良好な結果が得られた。残存歯の位置や口腔清掃不良,口腔機能の変化もあるため今後も数年ごとに作り替える必要がある。その都度,作製時には機能性を高めるよう意識したいと思う。

(COI開示:なし)
(田中病院倫理委員会承認番号 20230101)