第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD9] クリティカルケアにおける超高齢患者と家族に対する看護実践

2022年6月12日(日) 10:40 〜 12:00 第9会場 (総合展示場 F展示場)

座長:矢冨 有見子(国立看護大学校)
   吉田 嘉子(国立病院機構別府医療センター)
演者:丸谷 幸子(名古屋市立大学病院 看護部)
   松波 由加(済生会山口総合病院)
   吉里 美貴(一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院)
   菊池 亜季子(日本赤十字社医療センター 救命救急センター)

10:40 〜 11:00

[PD9-01] 超高齢者と家族の現状とクリティカルケアにおける課題

○丸谷 幸子1 (1. 名古屋市立大学病院 看護部)

キーワード:超高齢患者、家族看護

我が国は高齢化率28.7%(2020年)という超高齢社会であり、世界で最も高い状況にある。集中治療室に入室する高齢患者も増加しており、私の働く施設でも85歳以上の高齢者の入室数は、2017年の79名(うち予定入室5名)から2021年には124名(うち予定入室27名)であった。緊急入院などのやむを得ない状況だけでなく、予定手術による入室も増えている。厚労省の体力・運動能力調査の結果によると、高齢者の身体機能は20年前より5歳ほど若返っており、また「高齢者とは何歳から」という質問に対し、75歳以上と答えた割合が20年前の25.1%から2014年は48.8%になっている。こうした身体機能の向上や高齢者という枠組みの変化は積極的な治療という選択肢につながっていると考える。 医療の進歩も治療の可能性を拡大している。近年積極的に行われている経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)や血管内動脈瘤修復術(EVAR)はこの代表的なものといえる。また、加齢に伴い心不全の発症は増加するため、心不全治療のために集中治療室に入室する超高齢者も増加している。高齢者の治療の可能性が広がったことを喜ばしく思う反面、「よかった」と必ずしも思えない事例も存在する。手術は無事に終了したが、患者は術後せん妄を生じ、なかなか回復せず、入院期間が長くなっている間にADLは低下し、自宅退院が困難となり・・こういった事例をしばしば経験する。このような事例では、患者の意向を確認し、治療の選択をどうするか話し合うことが必要となる。 しかし、超高齢者は病態の悪化やせん妄により意思を明確に示せない場合が多い。クリティカルケア分野に限らず、超高齢者は本人が疾病や予後を知らず、希望する死の迎え方ができていないこと、家族の意向で治療の選択がなされていることなどが報告されている。クリティカルケアの場では終末期が見えにくく判断が難しいが、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿って患者の望む治療やケアの方針を患者・家族、多職種で考え、選択することが大切である。また、たとえ認知症や病状の悪化があっても、調子のよい時に患者と話し、本人が理解しやすい説明を行い、患者の思いを知ること、日々のケアの中で患者の表情や反応を観察し、今行われている治療や看護ケアが患者の苦痛につながっていないか見極めるよう努める。 患者の意向に沿ったケアにつなげるためには家族支援も重要である。家族は代理意思決定者としての役割を担うが、患者が生命の危機状態にあるという不安を抱えながら命に関わる代理意思決定をしなければならず、強いストレスにさらされている。家族背景も多様化しており、代理意思決定を担う家族が一人しかいない、家族も高齢者である、という家庭も多い。これは思いを語り合い、代理意思決定について話し合う相手が存在しないということである。看護師はその心情に寄り添いつつ、家族が患者の意向に沿った治療を選択できるよう支援する必要がある。2011年に発表された「集中治療領域における終末期患者家族のこころのケア指針」は家族の悲嘆に寄り添い、代理意思決定を支えるための指針である。この指針に沿って実践し、組織的に患者家族を支えることが重要である。 私たちの超高齢者看護は次代につながっていく。今回の交流集会では、後期高齢者とその家族が安心して受けられるクリティカルケア看護を検討したいと考えている。