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[IRS-02] 骨格筋萎縮が誘発する認知機能障害のメカニズムとその予防薬
キーワード:骨格筋萎縮、認知症、マイオカイン
アルツハイマー病発症の危険因子に関する疫学的研究は数多くあり、運動が認知機能に有益であることは、複数の疫学・臨床研究から示唆されている。逆に、加齢により筋量・筋力が低下する状態であるサルコペニアと認知症の併存率が高いことや、長期入院により認知症発症リスクが高まることが報告されており、身体活動低下と認知機能低下との関連が注目されている。しかし、骨格筋萎縮によって認知機能が低下することを直接証明した研究はなかった。 運動により骨格筋から分泌が増し、骨格筋自体や他の臓器に有益な影響を及ぼすmyokine群に注目した研究が進んでいるが、我々は、運動不足すなわち筋萎縮によって何らかの悪性myokineが増加し、それが脳に達して認知機能を障害するのではないかという仮説を立てた。 アルツハイマー病モデルの5XFADマウスを用い、記憶障害が起こる前の若齢時に、後肢に2週間のキャスト装着を行い廃用性筋萎縮を誘発した。キャスト非装着マウスでは記憶能力が正常だったが、廃用性筋萎縮マウスでは若齢にも関わらず記憶障害が発症した。萎縮した骨格筋から分泌される分子を網羅的に調べた結果、特にhemopexinタンパク質が増加していた。筋萎縮したマウスでは、hemopexin量が骨格筋のみならず、血中、脳の海馬で増えていた。次に若齢5XFADマウスの脳室内に直接hemopexinを2週間、連続的に投与したところ記憶障害が発症した。このマウスの脳内で起きている変化を網羅的に調べた結果、神経炎症に関わる因子として知られているlipocalin-2が増加していた。 以上本研究は、骨格筋の萎縮が認知機能障害の引き金を引くことを初めて明らかにした。この知見を応用し、骨格筋からのhemopexinの分泌を特異的に抑止することや、その他の薬物療法によって、認知症の発症を予防する可能性について検討している。