日本畜産学会第125回大会

講演情報

シンポジウム

[S3-01_02] 日本畜産学会第125回大会・家畜感染症学会企画シンポジウム「牛白血病ウイルス制御に向けた取り組み~過去と現在の取り組みから最新の研究まで~」

2019年3月29日(金) 13:30 〜 15:50 第I会場 (8号館8301講義室)

日本畜産学会第125回大会・
家畜感染症学会企画シンポジウム
「牛白血病ウイルス制御に向けた取り組み
〜過去と現在の取り組みから最新研究まで〜」

日  時: 2019年3月29日(金)  13:30〜15:50
場  所: 第Ⅰ会場 8号館3階8301講義室
主  催:家畜感染症学会

牛白血病ウイルス(BLV)は,牛に致死性の地方病性牛白血病を引き起こすウイルスで,国内の感染率は30〜40%と非常に高いです.北欧等では摘発淘汰により,感染牛を排除し,BLV清浄国となっている国が存在しますが,日本のように高い感染率では,摘発淘汰は困難です.そこで,今後日本がBLV感染制御をどのように行っていくかについて,過去の教訓から現在の取り組み,今後の対策に向けた研究について2名の先生をお招きしてご講演いただきます.皆様のご参加と活発なご議論をお待ちしております.

1.S3-01 「牛白血病の防疫対策」
泉對 博 (日本大学生物資源科学部獣医学科 教授)
BLV清浄国である北欧等の過去の成功した対策から,現在の日本の現状や諸外国のBLV感染状況を紹介する.また,BLVの感染制御に重要な伝播経路などBLVの基礎的な情報も交え,BLVについてのこれまでの知見を紹介する.

2.S3-02 「Reverse vaccinology手法を用いた新規牛白血病ワクチンの開発 」
間 陽子 (国立開発法人理化学研究所 開拓研究本部)
産業動物の感染症制御に最も効果がある方法のひとつがワクチンである.しかし,BLVに対するワクチンは現在ない.そこで,BLVに対するワクチン開発に向けた取り組みについて,BLVの基礎的な研究を交えて紹介する.また,BLVの最新研究を交えて,今後の対策についても紹介する.

[S3-01] 牛白血病の防疫対策

泉對 博 (日本大学 生物資源科学部 獣医学科)

牛の白血病には,牛白血病ウイルス(BLV)の感染によって発症する成牛型(地方病型)と原因不明の散発型に分けられ,散発型はその発病様式により,子牛型,胸腺型,皮膚型に細分されている.成牛型白血病が牛に発症する白血病の大部分を占めており,BLV感染後3~4年あるいはそれ以上の潜伏期間を経て発症することが多いので主に成牛が発症するが,2か月齢の新生仔牛の発症例もある.日本国内における牛白血病の発生状況は,2000年以前は年間約200頭前後であったが近年増加する傾向があり,2004年は500頭を,2008年は1000頭を,平成2012年は2000頭を超え,2017年には3000頭を超える発症が報告されている.BLV感染牛の年間発症率は0.3%以下(多い場合でも,100頭のBLV感染牛を飼育している農家で3年に1頭ぐらいの割合で発症)と考えられる.この事は国内におけるBLV感染牛の増加を示しており,2009年~2011年にかけて農水省が行った全国調査では,BLVの国内浸潤は乳用牛で約40%,肉用牛で約30%,感染農場の割合は酪農場で約80%,肉用牛農場で約70%でありとなっている.
BLVの伝播様式は不明な点が多いが,垂直,水平の両伝播様式が考えられる.卵や精子がBLVに感染しているという報告はなく,精液を介しての垂直伝播や感染牛から得た受精卵を介してのBLV伝播は,感染白血球の混入がない限り考えられない.また,BLV感染牛から得た卵を用いた体外受精胚移植は,借り腹牛がBLV陰性であれば必ずBLV陰性牛が誕生すると報告されている.従って,遺伝的に優良なBLV感染牛は,BLV陰性牛を仮腹牛に使用して受精卵移植で子孫を残し,BLV感染牛から生まれた仔牛はすみやかに親から離し,凍結した陽性牛の初乳を与え,通常乳は陰性牛のものを与えて飼育することが推奨される.
以前は,輸血や,直腸検査,除角,汚染注射針の使用や,小型ピロプラズムの発病防御のための輸血が本疾病の伝播要因となったことは否定できないが,家畜衛生教育の徹底によりこの様な人為的感染はなくなっている.従って現時点におけるBLVの主な水平感染は,アブなどの吸血昆虫による機械的伝播と考えられる.牛白血病のワクチンは開発されていないため,BLV感染の機会をなくしていくことで本疾病の防除をしなくてはならない.フリーストールによる飼育の普及が白血病発症牛の増加に関連していることより,この飼育形態がBLVの水平感染を拡大したことは明らかだと思うが,飼育の効率化や経済性を考えると中止することはできない.BLVはリンパ球中に遺伝子の状態で存続するため,感染初期の短期間は通常の伝染病と同様な水平感染が起こる可能性があるが,抗体上昇後の感染は感染リンパ球の伝播による.つまり感染が成立するのは血液が乾燥する前のリンパ球が生存している間だけであり,節足動物内で増殖するアルボウイルスと比較して伝播力は弱い.従って水平感染を防ぐには,定期的に全頭の血液検査を実行してBLV感染牛を検出し,特に末梢血白血球中にBLV感染リンパ球を高率に保有する牛を摘発する必要がある.この種の感染牛の検出には遺伝子量を定量できるReal time PCRが使用できる.感染源となりやすい牛は優先的に淘汰するとともに,陽性牛が少ない農場は淘汰を,多い場合は陰性牛と分離し,両者が接触する機会をなくし,感染牛の増加を防ぐ方策を実施する.そして「新生仔牛をBLV感染牛にしない」という方針で,世代交代により徐々に清浄化を進めて行く方法が現実的である.BLVの水平感染は未知の様式が存在すると思われ,現時点では水平感染を完全に制御する対策はない.しかし現在わかっていることを最大限に活用することで,BLVの汚染拡大は制御できると思う.