日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[D] 生理学・生化学・分子生物学

2024年3月31日(日) 09:00 〜 11:30 D会場 (白橿2)

09:45 〜 10:00

[D-37] チョウの翅組織におけるH2O2の挙動と色模様との関係

◯中里 優吾1、大瀧 丈二1 (1. 琉球大学)

チョウの翅の色模様は、性的シグナル、警告色、擬態のような様々な機能をもっている。この多様な色模様の形成過程を解明するための方法の一つに、色模様を構成する最小単位である鱗粉細胞の分化の運命決定や色素合成に関与するシグナルの特定を行うことが挙げられる。H2O2は生体に弊害をもたらす活性酸素種であるが、シグナル分子としての役割も担っている。本研究では、H2O2が翅の色模様形成に関わると仮定し、H2O2特異的な蛍光プローブBES-H2O2-Acを用いてイメージングによる実験を行った。翅組織のin vivoでのリアルタイムイメージングでは、翅全体にH2O2が見られ、高倍率では、未分化な鱗粉細胞において、表層から少し深部に存在する球状のオルガネラに蛍光シグナルが観察され、さらに、この蛍光シグナルの振動や消失も観察できた。損傷部位に集合するヘモサイトにも蛍光シグナルが観察された。H2O2をインジェクション法により導入すると、前翅腹側の眼状紋のコアディスクの縮小や後翅背側の眼状紋の黒色リングの拡大が見られた。また、翅組織に直接H2O2を導入すると、黒色鱗粉の分布の広がりが見られた。これらの結果から、H2O2はチョウの翅の色模様形成過程におけるシグナル分子として機能していることが推測される。