日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15]PM-2

2020年10月29日(木) 14:30 〜 15:30 A会場

座長:津野 靖士(鉄道総合技術研究所)、座長:今井 隆太(みずほ情報総研株式会社)

15:15 〜 15:30

[S15-09] 大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装のための取組

〇堀 高峰1、市村 強2、藤田 航平2、縣 亮一郎1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.東京大学地震研究所)

スーパーコンピュータ「富岳」の2020年度の運用開始に伴い、「富岳」を用いた成果を早期に創出することを目的として、文部科学省により「富岳」成果創出加速プログラム(2020~2022年度)が設置された。その課題の一つとして、著者らが中心となって申請した「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」が採択された。著者らは前身課題であるポスト「京」重点課題において、富岳の計算性能を最大限活用できるような有限要素計算アプリケーションの開発に取り組んできた。重点課題において開発された地震動解析プログラム「E-wave FEM」は、四面体二次要素を用いた陰解法と高性能前処理による反復解法を組み合わせた弾性波動方程式の求解により、複雑地盤における地震動解析を精度よく、安定に、かつ高速に行うことができる計算アプリケーションである。本アプリケーションは、国の被害想定における長周期震動評価のための手法高度化のニーズと合致していたため、重点課題の頃から国の被害想定への適用を目指した委員会での検討に組み込まれてきた。本課題においては、「富岳」でしかできない規模の地震動計算によって精度保証をした上で、国の被害想定における地震動評価で実際に用いられるようにすることが目標となる。さらに、開発した計算アプリケーション群を実務で活用するための環境整備を進め、建築・土木系企業等が、国の想定と同等の計算ができる仕組みを構築することも計画しており、5つの企業が本課題に連携機関として参画している。このように、高性能計算を活用した計算アプリケーションによる数値シミュレーションを、政策判断や実務等に活用するための基礎を築くことが、本課題の目指すところである。
 プロジェクトの立ち上げからこれまでのところ、国の被害想定における長周期地震動評価に必要な計算を今年度中に遂行するための準備を進めている。まず「富岳」の実機を用いて、E-wave FEM・STRIKEなどに共通する有限要素解析ソルバー部分の計算で「富岳」の性能が引き出されるように、計算科学・計算機科学の最先端技術を駆使したコード改良を継続中である。さらに、E-wave FEMと国の被害想定において従来用いられてきた有限差分法の数値解をベンチマークテストで比較することで、E-wave FEMを被害想定のためのツールとして採用するメリット等を整理している。また、E-wave FEMを連携企業が実務で使いやすいツールとするため、マニュアル、プリポスト処理用計算機とツール群の整備など、環境整備構築も進めてきた。今年度後半には連携企業の計算チュートリアルを行い、実装されている機能に対するフィードバックをうけて、さらに環境整備を改善していく計画である。STRIKEについても、重点課題からの共同研究をさらに発展させ、企業ごとのニーズを踏まえた非線形地盤増幅計算を「富岳」で実施する準備を進めている。
 さらに、津波初期水位推定や南海トラフプレート境界面固着度推定などを目的として、地震動解析コードとほぼ共通の有限要素解析ソルバーを用いた、弾性・粘弾性地殻変動の大規模計算コードE-cycle FEMの開発も進めている。こちらは、「富岳」でしかできない規模として、全球スケールの3次元不均質構造を考慮した弾性・粘弾性地殻変動計算により、参照解を得ることを目指す。そして、この参照解との比較により精度保証したグリーン関数を提供することで、国の被害想定のもとになる地震・津波シナリオの事前評価や、地震発生・準備過程ならびに津波発生過程の現状把握・推移予測・即時予測の高度化に貢献する。